日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年者の末梢血における血液学的検査成績の経年変化に関する研究
大原 行雄桜田 恵右宮崎 保杉村 巌
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1994 年 31 巻 7 号 p. 548-553

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抄録
60歳以上で自宅生活する健康な男女499名 (男274名, 女225名) について5年の間隔で末梢血を血液学的に検索して以下の結果を得た. 赤血球数, ヘモグロビン値, ヘマトクリット値は男の60~64歳群, 65歳以上群ではともに有意な加齢に伴う低下を示した. 女では, 65歳以上群のヘモグロビン値を除いていずれも有意な加齢に伴う低下を示した. 一方, 60~64歳群と65歳以上群との比較 (横断的検討)では, 男ではいずれも65歳以上群で低値を示す傾向を認めたのに対し, 女では有意差は認めなかったもののいずれも高値を示し, 全く逆の結果を得た. このことは, 男では縦断調査と横断調査の結果は一致するが, 女では相反する結果であり, この種の検討がこれまで横断調査を主に行われてきたことを考えると極めて興味ある結果と考えられた. 赤血球恒数では, MCV値は加齢とともに有意に低下し, MCH値とMCHC値はいずれも有意に増加した. MCV値は, これまでの報告では加齢とともに増加するとされていたが, 横断的検討では増加する傾向を示したものの, 縦断的検討では低下を示し, 今後, 脱落例をも含めた詳細な検討が必要と考えられた. 5年の経過で新たに貧血を呈した者は男18名 (6.8%), 女5名 (2.3%), 合計23名 (4.8%) であった. 以上のことから, 老年者における加齢変化の検討には縦断調査が有用と考えられ, その際は脱落例の検討も必要と考えられた. さらに, 老年者に多いといわれる潜在性疾患の発見やQOLの向上のためにも, 老年者における貧血診断の基準値としてはWHOで提唱されたヘモグロビン値, 男13g/dl, 女12g/dlを用いるのが適当と考えられた.
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© 社団法人 日本老年医学会
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