日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
高齢者の交通手段改善のための調査研究 (第2報)
神奈川県在住のA自動車製造会社定年退職者における車の役割と運転継続意思
吉本 照子
著者情報
ジャーナル フリー

1995 年 32 巻 4 号 p. 277-285

詳細
抄録

高齢運転者対策は, 1) 交通事故率の増加に対する安全対策, 2) 生活の質向上のための交通手段改善の2つの観点から検討する必要がある. 2つの観点から高齢者自身が期待する対策の内容を明らかにするために, 高齢運転者における車の役割, 運動継続意思および車の安全装備への期待に関し, 企業の定年退職者 (神奈川県在住, 60歳以上の男性) 500名を対象に郵送によるアンケート調査を行った. 回答者298名 (回収率: 59.6%) のうち, 運転免許所有者は196名, 現在運転している者 (継続者) は149名であった. クロス表, 数量化法III類を用いて分析した結果, I) 継続者の75%が日常の買い物, 50%以上が治療・健康診断, 友人訪問に車を利用し, これらの利用目的は相互に関連している (p<0.05: φ係数による検定). 運転頻度は80%近くが週に3回以上であり, 利用目的・頻度の点から主な交通手段である, II) 車の役割は, 93%が日常の足, 48%が家族・友人を乗せることが張り合い, としている, III) 運転継続意思と車の安全装備に対する期待は, 61%が車の安全装備を使いこなして長く運転を続けたいと考える一方, 安全装備に対する費用負担を避けたい者は22%と比較的少ない, IV) 車の役割, 運転継続意思, 車の安全装備への期待の関連を明らかにするために, 数量化法III類により分析した結果, 高齢運転者の安全装備に対する考え方を形づくる因子として, 安全装備に対する関心に関連する問題と, 車や安全装備を使いこなすことへの自信に関連する問題の2つが重要であることが明らかとなった. 家族・友人を乗せることの張り合いは, 安全装備に対する関心と安全装備を利用して運転を継続することへの願望と関連がある.
高齢運転者対策は, 安全性とともに, 家族・友人を乗せることが張り合いという公共交通機関では代替困難な車の役割, 同乗する非運転者の利益, 運転継続のために車の安全装備に大きく期待している高齢運転者の実態を考慮し, 高齢者も運転しやすい道路環境整備等も含めて検討する必要がある.

著者関連情報
© 社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top