日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
高齢者における上部消化管内視鏡検査の循環器系に及ぼす影響
血中hANP, hBNPを指標として
島本 史夫平田 一郎高尾 雄二郎勝 健一
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1995 年 32 巻 8-9 号 p. 581-586

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抄録

高齢者人口の増加と上部消化管内視鏡検査の進歩・普及にともない, 高齢者に内鏡鏡検査が施行される機会が年々増加している. 一般に高齢者は循環機能の予備能が低下している場合が少なくなく, わずかな循環器系の負荷でも重篤な状態におちいる危険性を含んでいる. そこで, 内視鏡検査が循環器系, とくに心臓自体に及ぼす影響を高齢者群 (60歳以上) と若年者群 (30歳以下) に分けて検討した. 方法は, 心負荷に対し鋭敏に反応して心筋細胞から分泌されるヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド (hANP) 及びヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド (hBNP) を内視鏡検査前後で測定することにより心房・心室に対する負荷の程度を推測した. 内視鏡検査前後で高齢者群 (21例)・若年者群 (10例) ともに血圧の有意な変動はなかったが, 脈拍数は検査後に有意に増加していた. 高齢者群では, hANPは内視鏡検査後に有意に上昇したが, hBNPは検査前後で有意差は認めなかった. 若年者群では, hANPは検査前後で有意な差はみられなかったが, hBNPは検査後有意に低下していた. 高齢者群では内視鏡検査により心房負荷がかかっていることが推察された. 以上より, 高齢者に対し内視鏡検査を施行する際には, 常に循環機能障害を引き起こす危険性を含んでいることを認識して, 全身状態を十分把握しておく必要がある. また, 血中hANP及びhBNP測定は内視鏡検査における心負荷の指標として有用であると思われた.

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