抄録
高齢者における脳梗塞と無症候性の閉塞性動脈硬化症 (ASO) の関係について危険因子を含めて検討した. 対象は高齢者67例 (男性11例, 女性56例, 平均年齢±標準偏差: 79.6±8.5歳). 脳梗塞 (44例) の診断は頭部CTを用い, 皮質梗塞 (23例) とラクナ梗塞 (21例) に分類した. 無症候性のASOの診断方法はドップラー血流計を用いて下肢血圧を測定し, ankle pressure index (API) を算出し, API<0.9を無症候性のASO 41例とした. 動脈硬化性疾患の危険因子と考えられる高血圧 (収縮期血圧≧140mmHg, または拡張期血圧≧90mmHg), 高総コレステロール (TC) 血症 (TC≧220mg/dl), 高トリグリセリド (TG) 血症 (TG≧150mg/dl), 血清高比重リポ蛋白コレステロール低値 (HDL-C<40mg/dl), 血清低比重リポ蛋白コレステロール高値 (LDL-C≧150mg/dl), 耐糖能異常 (空腹時血糖≧110mg/dl) について, 2疾患との関連を検討した. 脳梗塞群において無症候性のASOを有する例が, 非脳梗塞群に比し有意に多く認められた (p<0.05, odds 比: 5.6). この傾向はラクナ梗塞群 (p<0.05, odds 比: 3.8) に比し, 皮質梗塞群において顕著であった (p<0.05, odds 比: 8.9). 各危険因子の脳梗塞またはAPI低値との関係は, 高血圧がラクナ梗塞に, 低HDL-C血症と高LDL-C血症がAPI低値に有意な (p<0.05) 関連を示したが, いずれの危険因子も皮質梗塞と有意な関連は示さなかった. 高齢者においては脳梗塞と無症候性のASOの合併頻度は高く, このことを念頭において診断・治療を行う必要がある. 成人期に動脈硬化性疾患に対し危険因子と考えられている因子の皮質梗塞に対する関与は高齢者では明らかでなく, このことは加齢そのものの関与が大きくなるためと考えられる.