1998 年 35 巻 4 号 p. 303-306
嚥下性肺炎は老年者に頻度が高く, 死因としても重要であるが, 病態を解析するための動物モデルはあまり検討されていない. 我々は, C57 balck mouse に対して遺伝子導入の評価に用いられるE1遺伝子領域を除いて E. coli LacZ遺伝子を組み込んだ Adenovirus vector (Ad-CMV-LacZ) を麻酔下と無麻酔下に分けて経鼻的に投与し, LacZ遺伝子の発現をX gal 染色によって検討した. その結果, 無麻酔下のマウスに対する Ad vector 経鼻投与では, 投与した鼻腔にはLacZ遺伝子発現を認めたが, 気管, 両肺には, 遺伝子発現は1例もなかった. 一方, 麻酔下に Ad vactor を経鼻投与した群では, 全例で肺にLacZ遺伝子発現がみられ, 半数のマウスで気管にも遺伝子発現がみられた. したがって, 麻酔下のように意識や嚥下反射が障害された状態では, 口腔, 鼻腔内の微生物や口腔内容物を高率に誤嚥する可能性があり, この誤嚥の機序や誤嚥内容物の肺内分布の検討に麻酔下でのAd-CMV-LacZ経鼻投与動物モデルは有用と考えられる.