日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
痴呆相談室からみた痴呆医療の現状と問題点
岩本 俊彦藤井 広子馬原 孝彦高崎 優今村 敏治近喰 櫻野口 寿美子
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2001 年 38 巻 4 号 p. 528-533

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抄録

痴呆患者を抱える家族によって痴呆相談室に持ち込まれた相談事例を通して痴呆医療の現状と問題点を検討した. 解析の対象には, 患者の家族背景, 病歴および相談内容を記録した103件の中で, Clinical Dementia Rating (CDR) が1以上で痴呆ありと判断した75例を取り上げた. このうち病歴では痴呆に随伴する精神症状や行動異常 (以下, 周辺症状) の有無に加え, 加療の有無・形態について検討した. また, 相談内容は叙述的内容に基づいて, 項目1 (痴呆や周辺症状の評価に関する相談), 項目2 (症状に対する対応の仕方に関する相談), 項目3 (医療機関への受診方法に関する相談), 項目4 (治療方法・服薬に関する相談), 項目5 (福祉資源の情報に関する相談) に分類して各項目の相談頻度を検討した. 対象は女性50例 (平均年齢77.8歳), 男性25例 (平均年齢77.1歳) で, 女性が多かった. 対象を世話している者は高齢配偶者が多かったが, 相談者の多くは同居の子供や別居の娘であった. 脳卒中の既往は3例のみで72例には身体症状がなく, 緩徐発症の痴呆や周辺症状の問題で来室した. 痴呆の重症度ではCDR 1が54例と多く, 周辺症状では幻覚・妄想が21例にみられた. 治療は29例に行なわれていた. 各項目別の相談頻度は項目1, 3, 2の順でいずれも半数を越えて高く, 医療に対する不満を抱く相談者も13例あった. 以上より, 項目1の頻度が高かった点や, 特に, 高齢配偶者では痴呆が緩徐に発症した場合には発見が遅れることも考えられた点で, 痴呆患者の早期発見に関する啓蒙がさらに必要であると考えられた. また, 項目3が高頻度であった成績は, 周辺症状を伴う痴呆があっても何科にどのように連れていったらよいかがわからないでいるものが少なくない現状を示唆していた. 一方, 医療への不満から, 治療経過や病状の説明, 対応の仕方や薬の副作用, 社会資源の活用に関する情報提供が不足していると考えられた.

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