日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
薬剤による高度な徐脈を誘因として右心不全が増悪した高齢者特発性右房拡張症の1例
高橋 光司大島 清孝山本 浩三岩田 猛
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2001 年 38 巻 4 号 p. 544-547

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抄録

薬剤の副作用による高度な徐脈が誘因となって右心不全が増悪した高齢者特発性右房拡張症の1例を経験した. 症例は84歳, 男性. 10年前から下腿の浮腫が出現するようになり, 近医より心疾患のためと言われてプロスシラリジンと塩酸ベラパミルが投与されていた. 2カ月前から食欲低下と全身倦怠感があり, さらに10日前から労作時息切れが出現した. 理学的所見では頸静脈怒張と肝腫大, 下腿浮腫を認め, また心臓の聴診上収縮期逆流性雑音とIII音を聴取した. 心電図では心房停止と心室拍数31/分の房室接合部調律を認めた. 胸部X線写真では胸水貯留と心陰影の拡大を認めたが, 肺うっ血はなかった. 心エコー図では右心系, 特に右房の著明な拡大と三尖弁逆流を認め, 心室中隔は奇異性運動を呈していたが, 高度な右房拡大の原因となる器質的疾患はなかった. 以上より特発性右房拡張症を基礎疾患とする右心不全と診断した. 本症例に対して, 徐脈の原因と考えられた上記薬剤を中止し, 塩分と水分の摂取制限をするとともにβ刺激薬と利尿薬を投与した. その後, 心拍数が徐々に増加し, それに伴って右心不全は改善した. 現在, 利尿薬 (アゾセミド, スピロノラクトン) とジギタリス (メチルジゴキシン) を投与している. 自覚的には労作時に軽度の動悸を認めるのみで, 浮腫はない.

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