2001 年 38 巻 4 号 p. 548-553
症例は, 76歳の女性. 平成10年10月末から微熱を自覚していた. 11月2日に眼前暗黒感が出現してから意識レベルが低下し, 救急車で近医に搬送された. 発熱と呼吸困難を示したために抗生物質が投与されたが, 両症状が改善しなかったので11月26日に当科に紹介された. 右鎖骨上窩に腫脹したリンパ節を触知し, 腹部エコーで大動脈周囲にリンパ節腫大が認められた. 右鎖骨上窩のリンパ節生検所見から悪性リンパ腫 (diffuse large B cell type) と診断された. 第31病日からピラルビシン, シクロホスファミド, ビンクリスチン, およびプレドニゾロンによる低用量のTHP-COP療法を開始した. 以後の経過が良好で, 発熱と呼吸困難は消失した. 第87病日から第3クール目の化学療法を標準用量で施行したが, 第89病日に呼吸困難が出現した. 胸部レントゲン所見で心胸郭比の拡大 (69%) と肺うっ血, 心エコー所見で左室駆出率の低下 (33%) が認められたので, うっ血性心不全と診断した. フロセミド, 硝酸イソソルビド, およびミルリノンの投与で心胸郭比が60%に改善した. 以上, 心毒性が少ないとされていたピラルビシンを用いた化学療法後にうっ血性心不全を発症した高齢者悪性リンパ腫の1例を経験したので報告した.