日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
高齢の慢性腎不全症例における透析導入拒否
藤巻 博粕谷 豊川口 祥子原 志野古賀 史郎高橋 忠雄水野 正一
著者情報
ジャーナル フリー

2005 年 42 巻 4 号 p. 417-422

詳細
抄録

(目的) 高齢者慢性腎不全の透析医療において, 患者側が透析導入拒否の意思を表明することは少なくない. ここでは, 透析拒否例への私共の取り組みを通して, 透析導入拒否という事象をいかに捉えるべきかについて検討した. (方法) 東京都老人医療センターにおいて, 私共が対応した年齢60歳以上の高度慢性腎不全症例は152例であった. それらの症例中, 以下の2項目を満たす症例を透析拒否例とした.第一項目は, 再三再四, 長時間にわたって, 患者・家族・医療者による話し合いが行われたにもかかわらず, 透析導入の了解が得られなかった場合とした. 第二項目は, 病状の進行による致死的症状発現によって, 帰結が導かれた場合とした. 個々の透析拒否例で, その背景と家族状況を調査し, 透析拒否と関係する言葉を拾いあげた. 帰結についても調査を行った. (結果) 透析拒否例は7例 (男性5例・女性2例) で, 年齢は78±7歳 (平均±標準偏差) であった. 7例中6例が歩行可能であり, 全例が認知機能良好であった. 配偶者同居例は4例で, それら以外の症例では配偶者はすでに亡くなっていた. 世帯人員は3.9±1.8人であった. 医療者側としては, 全例が透析導入後も良好な生活の質を維持できると判断していた. 患者側からは,「もう, 十分に生きてきた」「このまま死んでもよい」という言葉が聴かれた. 帰結は緊急透析導入5例・死亡2例となった. 最初の話し合いから帰結までの経過日数は115±37日であった. (結論) 透析導入の受容/拒否は, 患者にとって生死に係わる選択である. 透析導入の意義を医療者側が認めた場合には,同意を得るための話し合いを続けるという立場を崩すことはできないと考える.

著者関連情報
© 社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top