日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
糖尿病の血管合併症
動脈硬化性変化について
堀内 成人佐々木 陽乾 久朗
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1969 年 6 巻 4 号 p. 288-294

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抄録

糖尿病患者には動脈硬化症の合併が高率であるが, 一方動脈硬化症は加令とともにその頻度が高くなる. 糖尿病患者の動脈硬化症について検討する場合, 同様な集団の糖代謝正常のグループと比較することが必要である. 成人病センターを受診した糖尿病患者 (初発見のものが多い) 1205名について, ブドウ糖50g経口負荷試験 (オートアナライザー法) で2時間後の血糖値200mg/dl以上のもの, 140~199mg/dlのもの, 120~139mg/dlのものの3群に分かち, 一方ドック入院者で2時間後の血糖値119mg/dl以下のもの313名を対照として, 年代別 (40~59才と60才以上の2群) および高血圧の有無 (収縮期血圧150以上または拡張期血圧90以上を高血圧, 収縮期血圧149以下および拡張期血圧89以下を正常血圧) によって組別けし, それぞれについて動脈硬化の頻度を比較検討した. その結果糖尿病患者には高血圧が比較的早期に発症し, その合併頻度は対照群に比してかなり高く, しかも糖代謝の悪化とともに高血圧合併の割合が高くなる. 一方網膜血管硬化症発症の頻度は糖代謝異常の強いものに高率となるが, 高血圧, 加令もその発症の大きな因子として影響している. また尿蛋白の出現も糖代謝の増悪とともに高率となるが高血圧の影響も強い. しかしPSP, 腎クリアランス (GFR, RPF) 異常の頻度は糖代謝異常との間に関係は認められず, 高血圧, 加令が強い影響を及ぼしている. また心電図も高血圧群に異常率が高く糖代謝異常による影響は認められない.
すなわちわが国の糖尿病患者については高血圧, 尿蛋白陽性の合併が高率であるが, 眼底, 心, 腎の動脈硬化症の合併は高血圧, 加令なども重要な因子として作用しており, これらの影響による部分が強く, 比較的軽度の糖代謝異常ではそれが動脈硬化に関与する因子は少ないものと考える.

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