2022 年 46 巻 2 号 p. 105-113
RNAには様々な化学修飾が存在し,すべての生物種を合わせて約150種類ものRNA修飾が近年次々に同定されている.RNA修飾はRNAの安定性や翻訳に不可欠であり,新しい遺伝子発現調節機構として世界的に注目される研究分野である.RNA修飾は細胞内でRNA機能を制御する一方で,分解・代謝された後は産物として修飾ヌクレオシドが生じる.修飾ヌクレオシドは細胞外液である血清や尿中へ排泄され,その一部は病態により変動してバイオマーカーとして機能するだけでなく,強力な生理活性を持ち受容体応答を介して液性因子として機能するものも存在する.以前我々は液性因子として機能する修飾ヌクレオシドとしてm6A(N6-methyladenosine)を報告した.m6AはアデノシンA3受容体を介して生体内で炎症応答を惹起し,細胞障害などの外的刺激に応じてRNA分解が亢進することでその量が増える修飾ヌクレオシドである.
COVID-19ワクチンは発症と重症化予防のために世界中の人々に接種が行われているが,多くの人に発熱,頭痛,倦怠感などの免疫応答に起因する副反応が起こる.ワクチン接種によるRNA修飾の代謝動態の変動を調べるため,ワクチン接種前後で随時尿を採取して質量分析による解析を行ったところ,修飾ヌクレオシドのうちm6A, m5C(5-methylcytidine)が有意に上昇しており,一方でm1acp3Y(1-methyl-3-(3-amino-3-carboxypropyl)pseudouridine)は有意に低下していた.主要な核酸分解産物である尿酸,ヒポキサンチン,キサンチンは変動しておらず,また未修飾ヌクレオシドも有意な変動は認めなかった.
COVID-19ワクチン接種により生体内のRNA修飾の代謝動態がダイナミックに変動している可能性が示された.