痛風と尿酸・核酸
Online ISSN : 2435-0095
症例報告 1
浮腫と腫脹の鑑別に超音波検査が有用であったCKD合併痛風関節炎の1例
緒方 美樹嶋田 英敬
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2025 年 49 巻 2 号 p. 145-150

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Abstract

患者は48歳女性.右手第3・4指,左手第4指の腫脹・疼痛に対し近医にて痛風・高尿酸血症と診断されたが,腎機能が低下していたため当院紹介となり精査加療入院となった.問診にて,約10年前より下肢の浮腫に対し自己判断により大量のトラセミド(20〜40mg/日)を内服していたことが判明した.トラセミドを漸減中止し血清クレアチニン値は改善傾向を示したが,血清尿酸値は依然高値であったためトピロキソスタット40mg/日を開始し退院となった.しかし15日後,両足背部の腫脹と疼痛(右>左)が再燃し来院した.来院時検査ではCRP高値だが,尿酸値5.1mg/dlと正常範囲内であった.その他の所見に異常なかったため,下肢血管超音波検査と関節超音波検査を施行したところ,右拇趾MTP関節,右足外踝に結晶沈着と血流シグナルを認めたため,痛風関節炎と診断された.浮腫との鑑別に超音波検査が有用であった症例を報告する.

Translated Abstract

A 48-year-old woman was referred to our hospital for further evaluation of finger joint swelling and pain, initially diagnosed as gout at a local clinic. Due to an impaired renal function, she was hospitalized for detailed examination and treatment. Medical history-taking revealed long-term self-administration of torasemide (20-40 mg/day) following a prescription for lower-extremity edema approximately 10 years earlier.

Torasemide was gradually tapered and discontinued, which led to an improvement in serum creatinine levels. However, since her serum uric acid level remained elevated, treatment with topiroxostat (40 mg/day) was initiated, and she was discharged.

Fifteen days later, she returned with recurrent swelling and pain in both feet, being more pronounced on the right side. Laboratory tests at the time showed elevated C-reactive protein (CRP), but her serum uric acid level was 5.1 mg/dL, within the normal range.

To evaluate the causes of edema and pain, lower-extremity vascular and musculoskeletal ultrasonography was performed. Crystal deposition and power Doppler signals were observed in the right first metatarsophalangeal (MTP) joint and right lateral malleolus. Based on these findings, a diagnosis of gouty arthritis was made.

緒  言

浮腫と腫脹は共に組織の膨らみを示すが,その原因や症状には違いがある.

腫脹は組織の炎症や感染によって引き起こされ,痛みや発赤を伴うことが多い.一方,浮腫は体液が細胞外に貯留することで発生し,通常は痛みや発赤を伴わないことが多い.しかし,重度の浮腫では痛みや発赤を伴うこともあり,その原因を鑑別することは重要である1).今回,これらの鑑別に超音波検査が有用であった症例を経験したので報告する.

症  例

【症 例】48歳,女性

【主 訴】両足背部の腫脹と疼痛

【現病歴】10年ほど前,嘔吐を繰り返し下肢浮腫も認めたため消化器内科を受診し,逆流性食道炎と低蛋白血症を指摘され利尿薬を処方された.その後,市販のトラセミドを海外より個人輸入し,自己判断で浮腫の容態に応じて内服するようになった.44歳頃に呼吸苦,胸部症状,体重増加を訴え循環器科に入院し,うっ血性心不全の診断でトルバプタンを投与された.精査では心機能低下や心電図異常は認めなかった.入院時に腎機能低下(Cr 0.97 mg/dL, eGFR 50.1 mL/min/1.73m2)を初めて指摘され,退院後再診時にはCr 1.05 mg/dL, UA 10.1 mg/dLと腎機能低下および高尿酸血症を指摘され専門医を受診するように勧められたが放置していた.48歳時,右手第3・4指,左手第4指の腫脹・疼痛で痛風と診断され近医にてステロイド投与を受けたが,腎機能が低下していたため当院を紹介された.血清Cr 1.21 mg/dL(eGFR 38.31 mL/min/1.73m2),血清尿酸値 12.9 mg/dLと異常値を示したため,精査加療目的で入院した.

 入院時,問診にて大量のトラセミド(20~40mg/日)を内服している事が判明し,腎前性腎不全が疑われた.トラセミドを漸減中止し経過を見たが両下肢の浮腫は再発せず,血清Cr 1.15 mg/dL(eGFR 40.49 mL/min/1.73m2)と改善傾向を示した.既往のうっ血性心不全についても心臓超音波検査にて所見なく,BNPも正常範囲内であった.血清尿酸値は8.6 mg/dLと依然高値であったため,トピロキソスタット40 mg/日処方され退院となった.しかし,退院15日後に両足背部の腫脹と疼痛(右>左)が再燃した.

【既往歴】低蛋白血症・逆流性食道炎(38歳),うっ血性心不全(44歳),子宮頸癌(47歳)

【家族歴】母:糖尿病,腎不全

【理学所見】右足背部に腫脹・疼痛を認める(Figure 1

【生化学検査】来院時の生化学検査の結果をTable 1に示す.CRP 8.16 mg/dl, UA 5.1 mg/dl, Cr 1.12 mg/dl, Hb 10.2 g/dl, WBC 7040 /μLと炎症所見は認めたが腎機能の悪化を認めず,また血清尿酸値も正常範囲内であった.

【超音波所見】

下肢静脈超音波検査:右足背部に浮腫性変化を認めたが,深部静脈血栓(DVT)は確認されなかった.

関節超音波検査:右拇趾MTP関節にdouble contour sign(DCS)と結晶(aggregate, tophi)及び血流シグナルを認めた(Figure 2).右足外踝に結晶(tophi)と血流シグナルを認めた.右足背部には浮腫像を認めた(Figure 3).左第3趾MTP関節にdouble contour signと結晶(aggregate)及び血流シグナルを認めた(Figure 4).

【臨床経過】

 関節超音波検査の結果より,痛風関節炎による浮腫・腫脹と診断されナプロキセン・コルヒチンを処方された.1週間後の再診時には腫脹は改善傾向であったが,右拇趾基節部の発赤と腫脹が持続していたためナプロキセンを追加処方され,2週間後には軽快した.腎機能は血清Cr 1.3 mg/dL(eGFR 35 mL/min/1.73m2)前後で安定しているが,尿酸値は6~8mg/dL台で推移し度々発作を繰り返している.

図1  両足足背部の腫脹(右>左)

(Figure 1 Right > Left dorsal Foot Swelling)

表1  退院後来院時生化学検査所見

(Table 1 Biochemical Test Results at Post-Discharge Follow-Up)

血液検査 尿一般
CRP 8.16 mg/dl ALT 14 U/I pH 8.5
TP 7.0 g/dl AST 8 U/I (-)
Alb 3.4 g/dl CK 87 U/I ケトン体 (-)
BUN 12.1 mg/dl Fe 21 μg/dl 蛋白 (±)
Cr 1.12mg/dl TIBC 248 μg/dl 潜血 (-)
eGFR 41.68 ml/min フェリチン 41.3 ng/ml ビリルビン (-)
UA 5.1 mg/dl WBC 7040 / μl 比重 1.010
Na 144 mEq/l Hb 10.2 g/dl
K 3.9 mEq/l Ht 31.5 %
Cl 109 mEq/l Plts 32.1×104 /μl
図2  右拇趾MTP関節

(Figure 2 Right first MTP joint)

図3  右足背と外踝

(Figure 3 Right dorsum and lateral malleolus)

図4  左拇趾MTP関節

(Figure 4 Left first MTP joint)

考  察

本症例は,初診時自己判断で20-40 mg/日という大量のトラセミド(日本での常用量は4-8mg)を内服していたことによる薬剤性腎機能低下・高尿酸血症を来していた.うっ血性心不全の既往もあったため,入院管理の上で漸減中止を行い特に問題なく経過していたが,高尿酸血症が持続していたため尿酸降下薬を開始し退院とした.退院15日後に両足背の著明な腫脹と疼痛が出現したが,原因として大量利尿薬を中止し自宅での食生活に戻った事による浮腫再発の可能性が疑われた.また,痛風発作や深部静脈血栓(DVT),心不全や腎不全などによる皮下の浮腫,リンパ浮腫,蜂窩織炎,血管性静脈炎など様々な疾患も疑われるため,それらの鑑別が必要だと思われた2)

事実,採血では尿酸値は基準値内であり,その一方で炎症反応は高値で視診や生化学検査のみでは診断が難しい状況であった.

痛みをともなう腫脹としては,下肢の浮腫では深部静脈血栓(DVT)や静脈うっ滞,リンパ浮腫など血管系疾患では痛みを伴うことも多い3).また,蜂窩織炎や悪性腫瘍などは局所の浮腫と強い痛みを呈することもある4).さらに痛風発作の場合,痛みがあるのは当然のことだが,発作を起こしている関節から離れた部位の皮膚表面に浮腫像が見られることも稀ではない.そういった際,超音波検査は非常に有用な検査となりうる.

鑑別ポイントとして,DVTや静脈うっ滞などの血管性の浮腫は片側性や皮膚変化を伴うことが多く,血管超音波検査で静脈の血流障害や血栓の有無を評価することで鑑別できる5).DVTの鑑別には下肢血管超音波検査が第一選択として推奨されている6).蜂窩織炎などは皮下組織が低エコーで不均一に肥厚し(敷石状エコー),血流シグナルを認めることがあり7),関節炎も関節超音波検査で滑膜肥厚や血流シグナルを検出することによって診断することができる.痛風発作では本症例のように関節内のdouble contour signやtophi,aggregateなどの結晶沈着を描出し,周囲の血流シグナルの検出により診断することができる.

結  語

複合疾患や病態の為に浮腫・腫脹の鑑別が難しい症例において関節超音波検査を行うことで確定診断に至ることができた.関節超音波検査は他疾患との鑑別においても有用であると考えられた.

COI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関連して特に申告なし

References
 
© 一般社団法人日本痛風・尿酸核酸学会
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