本稿では,延長保育サービスへのニーズが高い販売・サービス職業の卓越する地域として地方温泉観光地を取り上げ,サービスの導入・定着のプロセスとその地域的背景を明らかにした.北陸地方の代表的な温泉観光地である石川県七尾市では,市内認可保育所において高い比率で夜間の延長保育サービスが実施されている.この背景には,安定的な女性労働力確保を目的とした旅館組合による保育所設置と市による支援,さらにはニーズを見越した他保育所のサービス導入があった.本事例は,延長保育サービスに対する国家政策の介入がない段階において,認可外保育所が存立しない自治体で,地域固有のニーズに対応するために,企業,地域保育所,地方自治体が積極的に関与した事例として理解することができる.