本稿では,住友化学,三井化学,三菱化学といった旧財閥系総合化学企業3社を取り上げ,研究開発組織や拠点の立地履歴,拠点間の知識フローを明らかにし,研究開発機能の空間的分業の特徴と今後の課題を検討した.化学産業では,地方の生産拠点に近接した研究開発拠点の立地が見られるが,特に住友化学では拠点ごとに分散した研究開発活動が行われていた.これに対し,1990年代のグループ内企業の合併により誕生した三菱化学と三井化学では,研究開発拠点の再編が進められ,基礎研究を担う首都圏の中核的な拠点への集約が顕著であった.こうした立地と組織の違いを反映して,住友化学では事業部ごとの「縦の」知識フローが,三井化学と三菱化学では研究開発組織間の「横の」知識フローがそれぞれ中心となって,研究開発機能の空間的分業が構築されていた.これらの差異は,海外拠点との研究開発機能の空間的分業にも現れていた.