地理学評論 Series A
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論説
沈堕滝(雄滝)の後退速度
高波 紳太郎
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2021 年 94 巻 2 号 p. 45-63

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抄録

大分県の大野川中流部にある沈堕滝(雄滝)の位置は,15世紀後半から絵画や文献,測量成果に記録されてきた.本研究はそれらを用いて過去500年間にわたる雄滝の後退史を復元し,後退速度を推定した.その結果,雄滝の平均後退速度は1476年から1799年までの期間には0.7 m/年未満,1799年から1952年までは0.6-1.6 m/年で推移し,Aso-4火砕流堆積後の9万年間でみた平均後退速度(0.36 m/年)を上回った.また,過去500年間の後退速度において最大3倍程度の変化がみられた要因を考察するため,大野川流域の江戸時代における災害誌を参照した.滝の後退を促進しうる災害の頻度と雄滝の後退速度との時間的対応を検討したところ,大野川下流域での水害数は19世紀よりもむしろ18世紀に多く,雄滝の後退速度変化が生じた時期と一致しなかった.よって,ここ数百年間での気候変動は,滝の後退速度に変化をもたらす主要因としては寄与していないことが示唆された.

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