本研究では,京浜地域の中核部をなす城南地区の外縁部である神奈川県川崎市高津区下野毛地区における小零細機械工業の集積地の形成・変容過程を明らかにし,事業主の世代交代など時間とともに変化した企業間交流の意義を検討した.下野毛地区では,1970年代より,都区内からの工場移転等により集積地が形成される過程で親睦組織が生まれ,地区内事業者間の取引も行われるようになった.1990年代より,事業主の世代交代を契機として,積極的な情報発信の取り組みなど,企業間交流が深化した.現在の企業間交流は,外注先選定,受注創出,宅地化の進展への対応としての近隣住民との交流などの機能を担っている.1970年代から醸成されてきた活発な企業間交流を可能とする気風と,第2世代によって強化された「仲間意識」の結晶化こそが,現在の下野毛地区の集積の機能性であり,時代の変化への対応を可能にする基盤となっている.