地理学評論
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安倍川上流部の堆積段丘—荒廃山地にみられる急速な地形変化の1例—
町田 洋
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1959 年 32 巻 10 号 p. 520-531

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抄録
中央日本における典型的な急流河川である安倍川の上流部には,激しい侵蝕に由来した堆積段丘が発達している.筆者は,段丘の形態と堆積物について詳しく観察を行つて段丘の形成過程を吟味し,またこれらの地形・地質の状態と古文書に記された変災の記録とを対比することによつて下刻の速度を推定した.
1) 堆積段丘は大谷川流域の源流部(大谷崩)から供給された数次にわたる土石流で形成された埋積谷の侵蝕によつて生じた(第2図). 2) 段丘は高位段丘と低位段丘群との2群に分けられる(第3図).扇状地状の表面をもつ前者は土石流の堆積面であり,後者はわずかな側刻を伴なつた継続的な下刻によつて形成されたいわゆるnoncyclic terraceである(第4図). 3) 土石流は反覆して安倍川の支流を堰止し,湖や池を生じた.古文書の記録から解釈すると,最新の堰止は1702年に行なわれた.したがつて高位段丘面はその時に形成されたものと考えられる. 4) 諸段丘面と現河床との縦断形(第5図)は下刻の量や回春の様式を示している.下刻は遷急点(赤水滝)の下部で最大値,約70mに達する. 5) この滝は,砂岩よりなる抵抗の大きな岩棚に位置し,ほぼ19世紀末の低位段丘IIの形成の後に生じたものである.この低位段丘IIは,堰止湖の消滅後に隣接流域から供給された外来礫を含む特徴的な堆積物によつて区別されるものである. 6) 回春は主として運搬物質が減少したことに基因するものと考えられる.
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