日本資本主義の発展を全機構的にとらえるには,産業資本の発展と地主制の展開との2つの側面から検討が加えられねばならない.本論では,日本で最初に全国的統計を利用しうる1880年代についての統計処理を通じて,その両側面からの地域構造の把握を試みた.ここで指標としてとりあげたのは,地主制の展開をみるための小作地率と,産業資本の形成をみるための工場数である.この両者を郡別に検討してみると,つぎのことが指摘しうる.
小作地率の高い地主制の発展した地域と,工場数の多いマニュファクチュア地域とは一致しない.すなわち,小作地率が高いのは一般に,一定段階の生産力水準に達した水田地帯であるのに対し,マニュファクチュア地域は商業的農業の発達した畑作地帯に当つている.この限りでは,従来とかく結びつけられがちであつた,地主制と産業資本とが異つた地域において.異つた農民層分解の過程の中から生れつつあつたことを推察せしめるものである.