地理学評論
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狩野川の河床変動と洪水
三井 嘉都夫
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1960 年 33 巻 3 号 p. 130-138

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抄録
狩野川洪水の性格を知るために.修善寺橋下流部の河床変動と洪水の氾濫等について考察しつぎの結果を得た, 1) 狩野川は中.下流部の堆積平野を深くきざんでいるが,傾斜の急変する千才橋付近,黄瀬川合流点下流部などでは,河床がとくに深い. 2) 昭和26-33年間の河床横断実測値の比較によると,河床の低下している個所が多い.しかし, 3) 狩野川台風直前と直後の実測によると,大仁下流域に生じた堆積量 (50-60万m3) のうち,その大半は熊坂から天野堰付近に堆積した.その量は大仁から修善寺中学校付近までの侵蝕土砂量とほぼ対応する.しかし黄瀬川合流点下流部,大場川合流点と南条問までは侵蝕の傾向を示す. 4) 河床侵蝕のとくにいちじるしいのは河床傾斜の急変部,破堤ヶ所の上流部等である.これは平野部といつても堆積だけが行なわれている地域ではなく,侵蝕と堆積とがくりかえされる地域であることを示す. 5) 河床礫は今回の大洪水でも大した開きを示していない.
6) 破堤は上流部の集中的降雨にともなう大出水のほか,修善寺橋峡搾部でダムアツプされた河水が橋の流失によつて鉄砲水化したためと考えられる. 7) 鉄砲水が堤内地に氾濫しても.河状,流域地形に支配され,湛水期間は短かかつた. 8) 氾濫にともなう堤内地の土砂堆積量(ほぼ20-100万m3と推定)は,破堤した堤防土量(30万m3)に破堤にともなう河床洗掘量,堤内地の侵蝕量を加えた量と大差がない. 9) 以上のことから,狩野川大洪水でも,山地の崩壊物質が一挙に下流部に流出して.それが平野部に堆積したものではなく,むしろ比較的付近から供給されたものと考えられる.
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