地理学評論
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三重県北勢地区における桑園の衰退とその地域構造
大迫 輝通
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1961 年 34 巻 2 号 p. 68-82

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抄録
三重県北勢地区の桑園衰退について,とくに桑名・四日市臨海工業地帯の発展との関連,ならびに茶樹栽培との競合関係を中心に考察した結果,次の諸点が明かになつた.
(1) 北勢地区はかつて多かつた中勢に代り,現在三重県桑園分布の中心地帯をなしている.地域内部においては,最盛期当時普く分布した桑園も,その後の衰退については地域差が著しく,現在は三重郡・員弁郡の中間地帯から鈴鹿山麓にかけての地域に凝集的に残存分布して,南部地区と臨海地区ではその稀薄地帯となつている.
(2) 北勢の残存桑園は,地形的には丘陵・台地斜面や山麓傾斜地に,地質的には洪積層上の黒ボク地帯を中心に,用水的には天水灌漑のジ中でも旱越の危険の大きい畑地帯に広い分布が見られる.しかしてかかる地域の低位生産性が地帯の農家をして桑園を固執せしめる重要な原因となつている.
(3) 近時,北勢各地において各種作物裁培の地域分化が進展しつつあるが,とくに芋類・野菜・茶などの商品作物の滲透は:地帯の桑園復活を阻止し・またこれを駆逐しつつある・ことに鈴鹿郡を中心とする南部地区の桑園激減は,この地域の茶園増加が主要な原因となつている.両者は従来,土地利用上激しい交代関係をくり返してきたが,これは労働上における両者の競合関係によるものである・現在茶園は内部川扇状地付近の黒ボク地帯が分布の核心地域となつている.
(4) 桑名・四日市両市を中心とする臨海工業地帯の顕著な発展はその近郊の農業構造上,ひいてはその養蚕(桑園)経営の上に大きな変化を与えつつあるが,ことにここから多量の労働力を吸収し,その兼業化を促進したことは,一般農業経営よりも多量の労働力を必要とする養蚕経営を困難にして,この地域における養蚕からの離脱と著しい桑園衰退の原因となつた.北勢各地区の兼業率は,桑園残存率と明瞭な相関が認められる.
なお,高兼業率地帯における養蚕経営は粗放化の傾向が著しいが,かかる地帯の桑園は労働不足による土地の粗放経営の手段として残存維持せられている傾向が強く認められる.
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