地理学評論
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天竜川下流沿岸農村における水田経営環境の変化と市町村行政
新井 鎮久
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1976 年 49 巻 10 号 p. 669-684

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抄録
天竜川下流沿岸農村・豊岡村の広瀬地区では,地下水位の低下や減反政策の展開を契機に,農民の付託に基づく村の行政的努力によって,水田生産力の向上と遊休農地の利用が進み,自立経営志向農家の経営基盤の拡大が進んだ.村の開発計画の中に位置づけられたこれら諸施策は,今日,近郊農村の再編成にかかわる地方自治体の役割と農民の在り方を示すモデルケースとして,全国的に注目されるところとなった.
一方,対岸の浜北市竜池地区では,農民層の分化と経営類型の多様化から,農民たちは組織的対応がとれず,したがって,浜北市当局も中央農政の下請機能以外には独自の対策を試みようとしなかった.このため,竜池地区では,むしろ減反政策のために田床改良の遅れと農業労働力の流出が進み,荒地化という最も非生産的な形で,水田耕境の後退が進行した.
しかしながら,専業農家の推移をみると,推移の時差を除けぼ,両地区ともまったく同様の軌跡をたどっている.このことは,豊岡村当局の行政効果が,専・主業農家の農業所得の若干の向上と,兼業農家の兼業条件の創出と合理化にとどまり,自立経営農家群の育成からはかなり遊離していることを示唆している.同時に,自立経営農家の育成という問題には,基本法農政下における農民的努力と地方自治体の行政能力だけでは克服し得ない限界があることをものがたっている.
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