1983 年 56 巻 11 号 p. 735-753
水産地理学における生態学的研究の試みとして,越智諸島椋名漁村の一本釣漁をとりあげ,その漁場利用形態を時間的・空間的側面から分析した.現地調査にあたっては,漁携活動を観察する方法を重視した.
椋名地先の一本釣漁場は,潮流との関係によって, (1) ヒキシオ時に利用可能, (2) ミチシオ時に利用可能, (3) 両方のシオの時に利用可能,の3つに分類できる.漁携活動は,早朝から夕方まで行なわれる.そこで,漁師は出漁時刻の潮流の状態に応じた漁場を選択し利用する.このような漁場利用は,時間的には漁撈活動の周期性に注目して,空間的には利用水域を3次元的にとらえることによって,分析する必要がある.今後,このような生態学的データを蓄積し,さらにこれらを用いることによって,漁場と漁村とを総体として把握する漁村の生態学的理解の方法を究明しなければならない.