理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-S-01
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セレクション口述発表
ストレッチ手技の違いが膝関節位置覚に与える影響
- 静的ストレッチとホールドリラックスによる比較 -
林 直樹瓜谷 大輔
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抄録

【はじめに、目的】膝のスポーツ外傷の一因として関節位置覚機能(Joint Position Sense:以下JPS)低下が挙げられている。JPSに関与する器官として、関節包、関節包内器官、皮膚受容器の影響は少ないとされており、近年、筋紡錘の役割が注目されている。ストレッチのJPSへの影響に関する先行研究は静的ストレッチ(以下SS)でしか検討されておらず、見解も一致していない。一方、筋紡錘の活動性は等尺性収縮により高まるとされており、等尺性収縮を用いるホールドリラックス(以下HR)では筋紡錘の活動性が高まりJPSが維持、改善するのではないかと考えられる。そこで、ハムストリングスに対するSSとHRでの膝JPS変化の違いを明らかにすることを本研究の目的とした。【方法】健常大学生28名(男性13名、女性15名、平均年齢21.3±0.9歳)を対象とし、取り込み基準は非利き足膝関節に重大な疾患の既往がなく、股・膝関節90度屈曲位からの膝伸展角度が75度未満の者とした。ストレッチは、背臥位にて股・膝関節90度屈曲位から膝関節を伸展させた。SSは痛みのない範囲で30秒間最大伸張させた後、開始肢位にて30秒間休息を与える操作を3回行った。HRでは膝伸展可動域の中間域にて膝屈曲最大等尺性収縮を7秒間行った後、強い伸張は与えないよう膝伸展最終域を23秒間保持した。その後開始肢位にて30秒間休息を与え、この操作を3回行った。各被験者1日以上間を空けて両ストレッチを実施した。施行順序はランダムに決定した。柔軟性測定は、被検者は背臥位で非検査側大腿部をベルトにてベッドに固定し、検査側股・膝関節90度屈曲位からの膝伸展角度(以下膝伸展角度)を電子角度計で測定した。電子角度計は、大転子と大腿骨外側上顆を結ぶ線上、腓骨頭と外果を結ぶ線上にキネシオテープにて固定した。ストレッチ前後での膝伸展角度、ストレッチ前後の膝伸展角度変化量を算出した。膝JPS測定は、test-retest間の再現性が高いとされるReproduction of a set angleを用いた。腹臥位で膝関節軽度屈曲位をStart-Position(以下SP)とし、目標角度(屈曲45度)まで他動的に屈曲させ、その位置を被検者に自動的に5秒間保持させ記憶させた。そして他動的にSPまで戻した後、自動運動で目標角度を再現させ、3秒間保持させた再現角度を電子角度計にて連続で3回測定し、その平均値を求めた。JPS評価は目標角度(屈曲45度)から再現角度を引いた誤差角度の絶対値(絶対的誤差角度:Absolute Angular Error 以下AAE)を算出した。統計処理はWindows Microsoft Excel 2010を使用し、SS、HR前後での膝伸展角度とAAEはPaired-t検定を用いて比較し、SS前後とHR前後における膝伸展角度変化量とAAE変化量の群間比較はStudent-t検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には事前に研究内容について十分に説明を行い、同意を得たうえで実施した。なお本研究は畿央大学研究倫理委員会の承認を得たうえで実施した。【結果】膝関節伸展角度はストレッチ前後でSS群では65.7度から70.0度へ、HR群では64.8度から68.2度へと増加しており、両群において有意な増加が認められた。両群の膝伸展角度変化量間、両群におけるストレッチ前後でのAAEの変化、両群におけるAAE変化量間に有意差は認められなかった。【考察】SS、HR両群でストレッチ後に膝伸展角度は有意に増加し、ストレッチの効果は認められた。しかしSS、HR両群でJPS変化は認められなかった。HRで膝JPSが変化しなかった理由として、等尺性収縮を行うことで筋紡錘の活動性は高まると考えられるが、活動性の高まりは筋収縮時のみという一時的なものであり、筋収縮後に効果が持続しないためではないかと考えた。SSで膝JPSが変化しなかった理由としては、SSにより膝JPS低下を報告している先行研究とは異なり、本研究では自動運動を用いて膝JPSを測定したことが考えられる。SSにより筋紡錘感度が低下すると考えられるが、自動運動でのJPS測定時に生じる筋収縮により筋紡錘感度が回復したためJPSに変化がなかったのではないかと考えた。また、等尺性収縮による筋紡錘活動性の高まりに必要な収縮レベルは最大随意収縮の5%以下とされ、SS時の伸張が強すぎたことで最大随意収縮の5%程度の防御収縮が生じたことで筋紡錘感度が保たれ、膝JPSに変化が認められなかったのではないかと考えた。【理学療法学研究としての意義】ストレッチの効果について柔軟性改善に関しては見解が一致しているが、ストレッチ実施後のパフォーマンスに与える影響については手技による効果がそれぞれ異なる。そのため、ストレッチ手技による柔軟性以外の側面へ与える影響の違いを明らかにすることは、目的に応じて実施すべきストレッチを選択する際の参考になると考えられ、理学療法のみならずウォーミングアップやクールダウンに適用する際の根拠として重要であると考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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