宝石学会(日本)講演会要旨
平成15年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
セッションID: 11
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ベリリウム加熱の現状について
*古屋 正司
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抄録

2001年夏頃より、タイで加熱加工された、新しいタイプのパパラチャ・サファイアが急激に、そして多量に市場に出回った。
特にパパラチャ・サファイアを好む日本には、全輸出量の90%以上が輸入されたと推定される。日本ではジュエリーを販売する時には、一般に鑑別書をつけて販売されるので、当然のことながら、鑑別書も多量に用いられた。しかし、2002年1月にアメリカのAGTAより、この新しいタイプの石はDiffusion(表面拡散)の“処理石”であると発表された。日本で多量に発行している鑑別書には“処理石”ではなく“エンハンスメント”のコメントを用いているために、当社でももちろんだか、日本の宝石業界全体がどよめいた。
その後、この加熱はクリソベリルを用いた“ベリリウム加熱”であるとの発表があり、さらに市場が混乱したために2002年4月より全てのベリリウム加熱の宝石鑑別書はストップして鑑別書を発行しないようにとAGLで決定された。その後も、混乱は増々大きく広がっていき、販売された宝石が返品されたり、一般誌であるサンデー毎日が“アメリカで処理石とされているベリリウム加熱のパパラチャ・サファイアが日本では処理石ではないゥ凵hと我々業界を批判する記事を掲載し、増々市場は混乱した。
2002年、11月の初めに、バンコクの大手加熱加工工場を視察することができた。それをまとめて当研究所の情報誌Gem Information第23号に詳しく掲載した。又、今年の3月にはAGLの有志10名により、バンコクとチャンタブリの加熱加工工場の視察を行い、持ち帰ってきた資料を整理して、当研究所では最新号のGem Information第24号で発表している。
当研究所の考えとしてはベリリウム加熱加工は
1)今までの表面拡散(Diffusion)処理とは違うこと
2)加熱加工によりオレンジ、パパラチャ、イエロー、ゴールデン、ブルー、レッド、変化なし等の結果が得られること
3)ベリリウムは宝石の着色原因である遷移元素ではないこと
4)今までの加熱では変化しなかった石までが変化すること等を確認した
コランダムの加熱加工は数10年も前から行われており、旧加熱方法では約30~40%しか美しい宝石に仕上がらなかったが、今度の新しいベリリウム加熱では90%以上が美しい宝石に生まれ変わるとのことだ。
ベリリウムを用いて加熱加工することは、宝石業界に於いては、画期的な技術革新であり、宝石が本来持っている天然の要素を美しく引き出す新しい加熱技術である。言い換えれば地球がやり残したことの手助けをしているのだ。未熟児で生まれた宝石を見捨ててしまうのか、それとも手を掛けて一人前になるまで育ててあげるのか、そんな選択に似ている。
5年後、10年後になればこの発見がいかに素晴らしいことであったかが分かるだろう。

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© 2003 宝石学会(日本)
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