宝石学会(日本)講演会要旨
平成20年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
セッションID: 9
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“MexiFire”および“PeruBlu”と呼ばれる合成オパール
*江森 健太郎小林 泰介阿依 アヒマディ
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抄録

最近、メキシコ産ファイア・オパールとペルー産のブルー・オパールに酷似した、オレンジ色とブルーのカット石を検査する機会を得た。検査の結果、これらはRMC Gems Thai Co Ltd.によって製造され、天然オパールの重要な生産地であるメキシコとペルーに因んで“MexiFire”と“PeruBlu”という商品名で、2007年から販売されている合成オパールであることがわかった。
今回検査したファイア・オパールはオレンジを呈し、遊色効果は示さないが、透明度が良く、ガラス光沢を有する。外観はフラクチャーのない良質のメキシコ産天然ファイア・オパールに酷似している。一方、ブルー・オパールは極めて彩度の高いブルーを呈しており、一般的に半透明~不透明のペルー産の天然オパールより透明度が高く、フラクチャーやクラックなどをまったく含まない特徴がある。
これらの宝石学的特性を調べると、ファイア・オパールの屈折率は1.35で、比重(静水法による)は1.57、ブルー・オパールの屈折率は1.39で、比重は1.75であり、いずれの特性値も、メキシコ産の天然ファイア・オパールやペルー産のブルー・オパールの特性値を下回る。拡大観察では、密度が高く散在した微小インクルージョンによるクラウドや気泡などが石全体に容易に認められた。また、天然オパールには見られない微細な波状成長構造が認められた。
分光光度計による透過スペクトル測定において、紫外-可視領域では今回の合成オパールと天然オパールとの間に明瞭な相違は見られなかった。一方、近赤外線領域においては、合成オパールには通常見られないH2O(水)やOH(水酸基)に伴う吸収が認められた。また、天然ファイア・オパールは、約1450、1930nmを中心とした強い吸収ピークが出現するのに対し、合成ファイア・オパールでは約1410、1900nmに吸収ピークがシフトし、約2260nmに強い吸収が検出された。FT-IRによる赤外分光分析では、透過スペクトルの中の吸収ピークを精査すると、天然ファイア・オパールは弱い吸収ピークが約4500cm-1に出現するのに対し、今回の合成ファイア・オパールでは約4420cm-1に最も強い吸収ピークが現れ、約4500cm-1にも弱い吸収を伴う。
蛍光X線装置による成分の分析では、合成ファイア・オパールの場合は主成分Siに加えて微量のFe、合成ブルー・オパールに微量のCuが検出された。さらにLA-ICP-MSによる微量元素分析を行ったところ、FeとCu以外に、両色のオパールにB, Na, Mg, Al, K, Ca, Sc, Ti, Cr, Mn, Ni, Zn, Sr, Rh, Sn, Pbなどが検出された。天然ファイア・オパールと天然ブルー・オパールには、このタイプの合成オパールに検出されないBe, V, Ga, U, Srなどの微量元素があり、Mg, Al, K, Ca, Znなどの元素の含有量に差異があることが分かった。 FE-SEMによる観察において、合成ブルー・オパールは珪酸球の配列からできた構造が認められた。この珪酸球はおよそ10nm程のサイズであり、天然のオパールは粒径が150~450nmと比較しても非常に小さいことが分かった。X線粉末回折実験の結果、合成ブルー・オパールに含まれる珪酸球は非晶質なものが殆どであるが、中にはごく少量のクリストバライト、トリディマイトも存在している可能性があることが分かった。
過酸化水素水にこのブルー・オパールを反応させると、茶色に容易に変色することが認められたが、長時間放置すると元のブルーの色を取り戻した。これは、ブルー・オパールの色因となるCuは、このブルー・オパールの中のH2OにCu2+として溶けているものであり、珪酸球中の不純物でないことが分かった。
これら観察結果及び実験結果より、このブルー・オパールはCu2+を含む青色を呈する溶液下で、粒径の小さいコロイド状の珪酸球を沈殿させて生成したものであると推定される。
ファイア・オパールについても、FE-SEMやX線粉末回折等の実験は行ってはいないが、恐らく同様な方法で生成されていると推測される。

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