宝石学会(日本)講演会要旨
平成20年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
セッションID: 8
会議情報

Be拡散処理コランダムの鑑別
最近の進展について
*北脇 裕士阿依 アヒマディ
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

2002年以降突如として出現したコランダムのBe拡散処理は、輸出国側から一切の情報開示がなく、“軽元素の拡散”という従来にはなかった新しい手法であったこともあり、鑑別技術の確立が遅れ、業界としての対応も後手を踏む結果となった。その後の研究によって色変化のメカニズムなどの理論的究明には進展が見られたが、Be(ベリリウム)の検出にはSIMSやLA-ICP-MSなどのこれまでの宝石鑑別の範疇を超えた高度な分析技術が必要となり、今後の鑑別技術のあり方や業界としてのルーリングの改定を迫られる結果となった。
本報告では、Be拡散処理の鑑別について得られた最近の進展について紹介する。
◆LA-ICP-MS分析
LA-ICP-MSはコランダムに含まれるBeを0.05ppm程度の検出限界で分析することができる。Be を直接検出する分析手法としては、宝石鑑別ラボが現在使用できる最も先端的なものといえる。最近の研究において、天然のコランダムにも稀にBeが含有されることが知られるようになった。天然起源のBeは内包する微小インクルージョンに由来するもので、LA-ICP-MSのマッピング分析では測定場所に因る濃度差が大きく、検出限界以下から最大15ppmに及ぶことがある。天然起源のBeが検出されるときは同時にTaやNbが検出されることが多く、拡散処理によるBeと区別することが可能である。
◆LIBS分析
LIBSはLA-ICP-MSと同様にレーザー・ビームを使用して検査石の表面を蒸発させて高感度の元素分析を行う手法である。LA-ICP-MSと比べて検出できるBeの濃度は高く、通常2ppm程度である。最近、当研究室では使用していた赤外線レーザー(1064nm)を新たに光学結晶を導入することで紫外線レーザー(266nm)に変換した。このことに因って分析痕を約100μm(0.1mm)から30μm(0.03mm)程度に抑えることが可能となった。さらに、検出できる濃度も1 ppm程度まで感度を上げることができた。
◆FTIR分析
コランダムにはたいてい水素原子が含まれており、これらは結晶格子中の酸素と結合したOHや水分子、あるいはダイアスポア等の固相として存在する。FTIRではこれらを赤外領域での吸収スペクトルとして捉えることができる。これらの分光スペクトルは加熱温度や酸化・還元雰囲気などによって変化することが知られており、詳細な観察においてBe拡散処理の判断に有効な情報が得られる。
非玄武岩起源のコランダムには通常極わずかなOHが検出されるが、ギウダなどに用いられるような水素ガスを用いた還元雰囲気での加熱では3310、3233、3185cm-1に強い OHバンドに関連するピークとして検出される。Be拡散処理は通常酸化雰囲気で行われるため、このようなOH関連のピークは検出されない。固相としてのダイアスポアを含有するものは3020、2885、2120、1980cm-1付近に特徴的な吸収を示すが、これらは高温下では消失することがわかっており、Be拡散処理のコランダムには見られない。しばしばコランダム中に3161cm-1に吸収が見られることがある。この吸収も比較的熱に不安定でBe拡散処理には認められない。また、複数のBe拡散処理されたコランダムに3068cm-1の吸収が見られ、処理を検知する手がかりになることがわかった。

著者関連情報
© 2008 宝石学会(日本)
前の記事 次の記事
feedback
Top