宝石学会(日本)講演会要旨
平成20年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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  • 上原 誠一郎
    セッションID: 1
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
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    九州の地質は大きく3つに区別されます。(a) 主に北部九州に分布する基盤岩類(三郡変成岩および白亜紀花崗岩類),(b) 南部九州に分布する付加体,(c) 新生代後期の火山岩類。新生代後期の火山岩類が広く分布するのが特徴です。今回は九州の代表的な鉱物および九州大学の鉱物標本,特に高壮吉鉱物標本を紹介します。
    1.九州の鉱物産地
    九州産の鉱物は明治初期の鉱物学黎明期から文献に登場します。古典的産地を産状ごとにまとめると次のようになります。
    1-1. 接触交代鉱床:福岡県三ノ岳(灰重石),大分県尾平鉱山(斧石),大分県木浦鉱山(スコロド石,亜砒藍鉄鉱 1954年 伊藤貞市ほか),宮崎県土呂久鉱山(ダンブリ石)。岩佐巌(1885)は三ノ岳の黒色タングステン鉱物を三ノ岳鉱(トリモンタイト)と発表するが,後に灰重石であることが判明する。
    1-2. ペグマタイト:福岡県長垂(紅雲母),福岡県小峠・真崎(閃ウラン鉱,モナズ石),佐賀県杉山(緑柱石),宮崎県鹿川(水晶)。高壮吉は1933年に長垂のペグマタイトについて初めて鉱物学的報告をした。翌年,「長垂の含紅雲母ペグマタイト岩脈」として、国の天然記念物に指定される。
    1-3. 変成岩・蛇紋岩:長崎県鳥加(磁鉄鉱),熊本県豊福(コランダム),福岡県篠栗(ブルース石),大分県若山鉱山(針ニッケル鉱),大分県鷲谷鉱山(菫泥石,灰クローム石榴石)。岩佐巌(1877)は鷲谷鉱山の紫色と緑色鉱物の化学分析を行い日本で初めての新鉱物として発表した。これは紅礬土鉱(ブンゴナイト)と緑礬土鉱(ジャパナイト)であるが,再検討され菫泥石,灰クローム石榴石となる。
    1-4. 新生代後期の火山岩類:佐賀県西ヶ岳(普通輝石),佐賀県肥前町(木村石1986年 長島弘三ら),熊本県石神山(鱗珪石),熊本県人吉(芋子石,1962年 吉永永則・青峰重範),鹿児島県咲花平(大隅石,1956年 都城秋穂)。
    2.九州大学の鉱物標本
    現在,「高壮吉標本」は総合研究博物館第一分館の自然科学資料室に展示されています。高壮吉は1912年から1929年まで工学部採鉱学教室応用地質学講座の教授を勤め,また,1890年代から1930年代にかけて数多くの鉱物結晶の標本を収集しました。本標本は1939年に理学部が開設された際,収集標本の中から学問的に貴重なものが選ばれ,理学部地質学教室(現在の地球惑星科学教室)に寄贈されたものです。その他に工学部のクランツ標本を中心とする鉱物標本,理学部の岡本要八郎標本,吉村豊文標本,1958年制作の「日本新名鉱物一覧標本(1958)」などがあります。これら鉱物標本のデータベースは総合研究博物館のホームページ中に制作中で,一部を公開しています(http://database.museum.kyushu-u.ac.jp/search/mine/)。
  • 川野 潤, 阿依 アヒマディ
    セッションID: 2
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
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    ダイヤモンドに紫外線を照射すると、原子レベルの欠陥や微量な含有元素の影響で蛍光を発することがあり、その特徴は鑑別上欠かせない情報として利用されてきた。さらに微視的に研磨面を見た場合、欠陥や微量元素の濃度が成長バンドやセクター間でわずかに異なるために蛍光強度に差異が生じ、成長パターンが観察できる。このような成長構造はダイヤモンドの成長履歴を反映するために天然と合成では明確なパターンの違いがみられ、その判別を行う上で非常に有効な手がかりになり得る。
    1996年にDiamond Trading Center (DTC) により開発されたDiamondViewTMは、この特徴を利用し、ダイヤモンドの研磨面に225 nm以下の波長をもつ強い紫外線を照射することによって、表面付近に励起された蛍光像を観察することができる装置である。この蛍光像のパターンは、ダイヤモンドの成長構造に対応する。この装置を用いれば、ルースおよびジュエリーにセットされたダイヤモンドの紫外線蛍光像を非常に感度よく短時間で観察できるとともに、燐光のキャプチャーも可能である。現在販売されているDiamondViewTMは第3世代にあたり、初代のものに比べるとサンプルのセッティング方法や紫外線の照射方向が変わるなど、操作性やイメージの質が向上している。
    今回、最新のDiamondViewTMを用いてダイヤモンドの観察を行った結果、天然および合成に特徴的な成長構造を観察できたほか、処理されたダイヤモンドの識別にも有効であることが確認された。例えば、HPHTアニーリングと照射を含むマルチステップの処理を施されたピンクのダイヤモンドの場合、成長バンドに沿った蛍光強度の明暗やH3センターに起因する黄緑色の発光の分布が観察され、HPHT処理のみや照射処理のみの場合とは異なる蛍光像を示した。
    また、ダイヤモンドの成長累帯構造を観察することによってその成長履歴や生成起源などを推定するための有効な手法として、カソードルミネッセンス(CL)法がある。この手法は、電子線を試料に照射して蛍光を見る方法であるが、電子線の影響は表面から数百nm以下で、紫外線に比べてさらに表層付近にとどまるため、より2次元的な蛍光像が観察される。その結果、非常に鮮明なイメージを得ることができるが、観察を行うにはある程度の時間をかけて試料室を真空にする必要がある。一方、DiamondViewTMは真空を必要とせず短時間で観察を行うことができるとともに、サンプルをセットしたまま回転してさまざまな角度から観察することも可能であるため、操作性が非常に優れている。さらに、燐光のイメージをキャプチャーすることができるのも、DiamondViewTMの利点である。この両者を目的に応じて使い分け、他の宝石学的手法や分光分析と組み合わせることで、ダイヤモンドの起源をより効率よく正確に判別することができる。
  • 間中 裕二, 山本 正博
    セッションID: 3
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
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    ウォーターメロンの商品名を付けられた累体構造を示すグリーンダイヤモンドの鑑別をする機会を得た。このダイヤモンドの外観は外周部が半透明で緑色の濃淡を示し、中央部は透明な緑色を呈する。形状は縦横が4.71×5.41mmに対し厚さ0.69mmのスライス状で一部にファセットが付けられている。
    グリーンのダイヤモンドは、色の起源が天然か照射処理か判別が難しいもののひとつである。当該石は可視分光において通常であれば処理石と判断されるほどの明瞭なGR-1(741nm)吸収を示し、赤外分光においてもH1a(1450cm-1)の吸収が観察された。このことから放射線の影響を受けているのは明らかであるが、拡大検査では一般的な照射処理ダイヤモンドのような表面にのみ色が付いていることは確認できず、さらに中央の透明な部分でも緑色の色むらが観察されたため、人工的な照射とは断定できない。そこでDiamondViewTMや顕微ラマン分光等を用い当該石の色起源について検査した結果を報告する。
  • Cho Hyun-min, Kim Young-chool, Kim Sun-ki, Park Jea-won, 阿依 アヒマディ
    セッションID: 4
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
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    Black diamonds are relatively rare in nature and has been introduced for jewelry since the end of 1990s and it comes naturally and artificially. It has been known that the natural black diamond contains inclusions such as granular or needle-like graphite or sulphide minerals. The artificial black diamond is known to be produced mainly by neutron irradiation in a nuclear reactor, however, this black Colour is actually deep blue to green. Recently, a new type black diamond has been produced by the high temperature (HT) treatment using diamonds of very poor quality single crystal or polycrystalline diamonds. The Colour of diamond can be changed to black by graphitization on the surface and/or crack-like defects reaching to the surface. In this work, we produced black Coloured diamond by N ion implantation and heat treatment in vacuum or inert gas atmospheres.
    Determining origin of Colour for some green diamonds still poses a great challenge for the gemologist. The green Colour is usually caused by irradiation, but the source of the radiation may be either natural or the product of a laboratory. Some have features that are unlike those typically seen in diamonds treated by cyclotron or lower-energy electron irradiation in a linear accelerator. The distinctive feature around the culet of this irradiated diamond (commonly referred to as the umbrella effect) is a result of the cyclotron. Lower-energy electron irradiation in a linear accelerator can create a thin layer of Colour beneath the pavilion facets. These days, the most common methods are neutron irradiation in a reactor and high-energy electron irradiation in a linear accelerator. These can completely penetrate even large stone, the resulting green Colour was created more uniformly throughout the diamond rather than near the surface. The Hanmi laboratory very recently examined very rare type green diamond that showed some interesting features. The 7.69ct diamond (12.38x10.30x6.89 mm) was Colour graded as Fancy bluish green. Colour concentration pattern was uniformly throughout the diamond. UV-Visible spectrum showed a GR band with the GR1 at 741 nm, thus, the green Colouration was due to an irradiation. Infrared spectroscopy revealed that this was a type_II_a diamond with peak at 1414cm-1. However, we would not conclude whether the diamond is of natural or artificial Colouration.
  • 高橋 泰
    セッションID: 5
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
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    久米武夫氏は日本の宝石学の先駆者の一人であり、御木本幸吉氏の義弟である。御木本が明治時代に銀座に出店した際、顧客に外国人が多いことに気がついた御木本幸吉氏の命を受けアメリカにジュエリーデザインの研修に派遣された経歴を持つ。この経験により、久米氏は日本における宝石学の先駆者として活躍し、数々の宝石関連の著書を残している。彼は昭和14年、東京地学協会発行の地学雑誌に「宝石奇譚」を記しているが、同年5月6日付けで宝石標本を宝石参考品として出品している。その時の久米武夫コレクション(仮称)は、山梨県立宝石美術専門学校が寄贈品として所蔵している。お孫さんに当たる久米祐介氏により平成14年に教材として寄贈されたもので、標本個数244点のカット石を主体としたコレクションである。内訳は、天然石165点、合成石50点、模造石24点、処理石5点である。このコレクションは当時の宝石業界においてとり扱われていた宝石類を示すものであり、既に扱わなくなった宝石種や現在に至るまで流通し続けている種類を知ることができる。このコレクションの中からコランダム、真珠、サンゴ等数種類の宝石をピックアップし紹介してみたい。
  • 林 政彦, 安藤 康行
    セッションID: 6
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
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    青色宝石として人気の高いラピス・ラズリを構成する主な鉱物であるラズライト(Lazurite:(Na,Ca)8[(S,SO4,Cl.OH)2│(AlSiO4)6])、空青色のトルコ石(Turquoise:Cu2+Al6[(OH)2│PO4]4・4H2O)、鮮緑色のマラカイト(孔雀石:Malachite:Cu2[(OH)2│CO3])などは、ふるくから岩絵具として使われていた。
    わが国では、7~8世紀に描かれた奈良県高松塚の壁画において、青色はアズライト(藍銅鉱)、緑色はマラカイト(孔雀石)、赤色は辰砂(Cinnabar:HgS)などの鉱物が使われており、12世紀頃の「源氏物語」の絵巻も同様な岩絵具で描かれていた(山崎一雄他、1979)。
    最近流通していた岩絵具について、X線粉末回折を行った結果は、以下のとおりで、色調などを調整するために石英や粘土鉱物などを混ぜることが分かった。
    ・黒色:Graphite(石墨:C)
    ・青色:Lazurite(ラズライト:(Na,Ca)8[(S,SO4,Cl.OH)2│(AlSiO4)6])、Azurite(藍銅鉱:Cu3[OH│CO3]2)、トルコ石(Turquoise:Cu2+Al6[(OH)2│PO4]4・4H2O)
    ・緑色:Malachite:Cu2[(OH)2│CO3]) ・赤色:Cinnabar(辰砂:HgS), Realgar(鶏冠石:As4S4), Hematite(赤鉄鉱:Fe2O3
    ・黄色:Orpiment(雄黄:As2S3), Goethite(針鉄鉱:α-FeOOH)
    ・白色:Aragonite(霰石:Ca[CO3]), Calcite(方解石:Ca[CO3]), Plagioclase(斜長石:(Na,Ca)Al(Al,Si)Si2O8), Quartz(石英:SiO2), Clay minerals(粘土鉱物)
  • 森 孝仁, 奥田 薫
    セッションID: 7
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
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    ルビーは、日本の市場で人気の高い色石の1つである。中でもミャンマー産のルビーは人気が高く、日本で流通しているルビーの多くは、加熱処理によって美しい赤色を呈するMong-Hsu鉱山のものである。
    しかし、最近では、加熱処理技術が向上し、条件や添加物を変えることにより、様々な産地のコランダムから理想的な色相のルビーを作り出すことが可能になってきた。これらの処理は、時として宝石の希少性を大きく左右し、本来の価値を曖昧にするだけでなく、処理条件が一般的に非公開の場合が多いことから、取引の現場における不安要素となってきている。
    そのため、最近では、研磨のみが施された非加熱のルビーを求める声も多くなり、ルビーの売買において、加熱処理が施されているかどうかの判断が必須となってきている。
    各鑑別機関では、紫外/可視および赤外領域の分光分析やレーザートモグラフィ等の高度な分析機器による分析結果とともに、ルビーの非加熱・加熱の判断を行っているが、現場では、内部特徴の観察のみが、唯一の判断材料となっている。
    ミャンマー産のルビーにおいては、これまで変質していないシルクインクルージョンの存在が、非加熱の証とされていたが、最近では、1000°C以下での低温加熱も行われるようになり、シルクインクルージョンだけでは、判断材料として不十分になってきた。
    そこで、今回、ミャンマーのMogok鉱山から入手したルビー原石を用いて、内包されるインクルージョンの種類と、低温加熱後の変化について調査したので、その結果について報告する。
    まず、インクルージョンが観察しやすいように、ルビー原石を3mm厚の板状にカットし、それぞれのルビー中に内包されるインクルージョンを観察、顕微ラマン分光分析による同定を行った。その後、ルビーを3つのグループに分け、それぞれ、500°C、750°Cおよび1000°Cで加熱処理を行った。加熱後、それぞれのルビー中のインクルージョンの変化を観察した。
  • 最近の進展について
    北脇 裕士, 阿依 アヒマディ
    セッションID: 8
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
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    2002年以降突如として出現したコランダムのBe拡散処理は、輸出国側から一切の情報開示がなく、“軽元素の拡散”という従来にはなかった新しい手法であったこともあり、鑑別技術の確立が遅れ、業界としての対応も後手を踏む結果となった。その後の研究によって色変化のメカニズムなどの理論的究明には進展が見られたが、Be(ベリリウム)の検出にはSIMSやLA-ICP-MSなどのこれまでの宝石鑑別の範疇を超えた高度な分析技術が必要となり、今後の鑑別技術のあり方や業界としてのルーリングの改定を迫られる結果となった。
    本報告では、Be拡散処理の鑑別について得られた最近の進展について紹介する。
    ◆LA-ICP-MS分析
    LA-ICP-MSはコランダムに含まれるBeを0.05ppm程度の検出限界で分析することができる。Be を直接検出する分析手法としては、宝石鑑別ラボが現在使用できる最も先端的なものといえる。最近の研究において、天然のコランダムにも稀にBeが含有されることが知られるようになった。天然起源のBeは内包する微小インクルージョンに由来するもので、LA-ICP-MSのマッピング分析では測定場所に因る濃度差が大きく、検出限界以下から最大15ppmに及ぶことがある。天然起源のBeが検出されるときは同時にTaやNbが検出されることが多く、拡散処理によるBeと区別することが可能である。
    ◆LIBS分析
    LIBSはLA-ICP-MSと同様にレーザー・ビームを使用して検査石の表面を蒸発させて高感度の元素分析を行う手法である。LA-ICP-MSと比べて検出できるBeの濃度は高く、通常2ppm程度である。最近、当研究室では使用していた赤外線レーザー(1064nm)を新たに光学結晶を導入することで紫外線レーザー(266nm)に変換した。このことに因って分析痕を約100μm(0.1mm)から30μm(0.03mm)程度に抑えることが可能となった。さらに、検出できる濃度も1 ppm程度まで感度を上げることができた。
    ◆FTIR分析
    コランダムにはたいてい水素原子が含まれており、これらは結晶格子中の酸素と結合したOHや水分子、あるいはダイアスポア等の固相として存在する。FTIRではこれらを赤外領域での吸収スペクトルとして捉えることができる。これらの分光スペクトルは加熱温度や酸化・還元雰囲気などによって変化することが知られており、詳細な観察においてBe拡散処理の判断に有効な情報が得られる。
    非玄武岩起源のコランダムには通常極わずかなOHが検出されるが、ギウダなどに用いられるような水素ガスを用いた還元雰囲気での加熱では3310、3233、3185cm-1に強い OHバンドに関連するピークとして検出される。Be拡散処理は通常酸化雰囲気で行われるため、このようなOH関連のピークは検出されない。固相としてのダイアスポアを含有するものは3020、2885、2120、1980cm-1付近に特徴的な吸収を示すが、これらは高温下では消失することがわかっており、Be拡散処理のコランダムには見られない。しばしばコランダム中に3161cm-1に吸収が見られることがある。この吸収も比較的熱に不安定でBe拡散処理には認められない。また、複数のBe拡散処理されたコランダムに3068cm-1の吸収が見られ、処理を検知する手がかりになることがわかった。
  • 江森 健太郎, 小林 泰介, 阿依 アヒマディ
    セッションID: 9
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
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    最近、メキシコ産ファイア・オパールとペルー産のブルー・オパールに酷似した、オレンジ色とブルーのカット石を検査する機会を得た。検査の結果、これらはRMC Gems Thai Co Ltd.によって製造され、天然オパールの重要な生産地であるメキシコとペルーに因んで“MexiFire”と“PeruBlu”という商品名で、2007年から販売されている合成オパールであることがわかった。
    今回検査したファイア・オパールはオレンジを呈し、遊色効果は示さないが、透明度が良く、ガラス光沢を有する。外観はフラクチャーのない良質のメキシコ産天然ファイア・オパールに酷似している。一方、ブルー・オパールは極めて彩度の高いブルーを呈しており、一般的に半透明~不透明のペルー産の天然オパールより透明度が高く、フラクチャーやクラックなどをまったく含まない特徴がある。
    これらの宝石学的特性を調べると、ファイア・オパールの屈折率は1.35で、比重(静水法による)は1.57、ブルー・オパールの屈折率は1.39で、比重は1.75であり、いずれの特性値も、メキシコ産の天然ファイア・オパールやペルー産のブルー・オパールの特性値を下回る。拡大観察では、密度が高く散在した微小インクルージョンによるクラウドや気泡などが石全体に容易に認められた。また、天然オパールには見られない微細な波状成長構造が認められた。
    分光光度計による透過スペクトル測定において、紫外-可視領域では今回の合成オパールと天然オパールとの間に明瞭な相違は見られなかった。一方、近赤外線領域においては、合成オパールには通常見られないH2O(水)やOH(水酸基)に伴う吸収が認められた。また、天然ファイア・オパールは、約1450、1930nmを中心とした強い吸収ピークが出現するのに対し、合成ファイア・オパールでは約1410、1900nmに吸収ピークがシフトし、約2260nmに強い吸収が検出された。FT-IRによる赤外分光分析では、透過スペクトルの中の吸収ピークを精査すると、天然ファイア・オパールは弱い吸収ピークが約4500cm-1に出現するのに対し、今回の合成ファイア・オパールでは約4420cm-1に最も強い吸収ピークが現れ、約4500cm-1にも弱い吸収を伴う。
    蛍光X線装置による成分の分析では、合成ファイア・オパールの場合は主成分Siに加えて微量のFe、合成ブルー・オパールに微量のCuが検出された。さらにLA-ICP-MSによる微量元素分析を行ったところ、FeとCu以外に、両色のオパールにB, Na, Mg, Al, K, Ca, Sc, Ti, Cr, Mn, Ni, Zn, Sr, Rh, Sn, Pbなどが検出された。天然ファイア・オパールと天然ブルー・オパールには、このタイプの合成オパールに検出されないBe, V, Ga, U, Srなどの微量元素があり、Mg, Al, K, Ca, Znなどの元素の含有量に差異があることが分かった。 FE-SEMによる観察において、合成ブルー・オパールは珪酸球の配列からできた構造が認められた。この珪酸球はおよそ10nm程のサイズであり、天然のオパールは粒径が150~450nmと比較しても非常に小さいことが分かった。X線粉末回折実験の結果、合成ブルー・オパールに含まれる珪酸球は非晶質なものが殆どであるが、中にはごく少量のクリストバライト、トリディマイトも存在している可能性があることが分かった。
    過酸化水素水にこのブルー・オパールを反応させると、茶色に容易に変色することが認められたが、長時間放置すると元のブルーの色を取り戻した。これは、ブルー・オパールの色因となるCuは、このブルー・オパールの中のH2OにCu2+として溶けているものであり、珪酸球中の不純物でないことが分かった。
    これら観察結果及び実験結果より、このブルー・オパールはCu2+を含む青色を呈する溶液下で、粒径の小さいコロイド状の珪酸球を沈殿させて生成したものであると推定される。
    ファイア・オパールについても、FE-SEMやX線粉末回折等の実験は行ってはいないが、恐らく同様な方法で生成されていると推測される。
  • 藤田 直也, 江森 健太郎
    セッションID: 10
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
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    現在こはく、コーパルの鑑別は非常に困難な状況にある。様々な憶測やうわさが流れ、現実にいままで見たこともないようなものも鑑別にもちこまれている。
    そのような現状を踏まえ、様々な環境下でどのようにこはくやコーパルが変化していくかを把握することは非常に有用なことだと思われる。今回はそれぞれ「コーパル」「加熱を受けたこはく」「気泡の多いこはく」「黄緑色の色因不明のこはく」に対して簡易な加圧加熱実験および減圧加熱実験を行い、外観や屈折率など諸データの変化、特に赤外分光分析(FT-IR)の変化を追ってみた。
    また、こはくに放射線をあてる実験を行う予定であるが、有用なデータが得られれば発表する。
    こはくの研究、鑑別業務の一助になれば幸いである。
  • 阿依 アヒマディ
    セッションID: 11
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
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    2007年半ばに“グリーン・アンバー”と呼ばれている商品が香港市場でみられるようになり、9月香港国際ジュエリー&時計フェアの有機宝石の新目玉となった。2008年1月のIJTや2月のアメリカ・ツーソン・ジェム・フェアにも続々登場し、“天然カリビアン・アンバー”や“希少なバルト・アンバー”という商品名で香港やポーランドやリトアニアなどの琥珀業者によって販売されている。販売金額は通常の天然バルト産琥珀やドミニカ産琥珀より高値で取引されており、香港市場での登場と同時に、鑑別機関にビーズやピアー・シェープなどの“グリーン・アンバー”が鑑別依頼で持ち込まれるようになった。黄緑から緑色を呈するこの商品は非常に高い透明感を有し、ドミニカ産の天然ブルー・アンバーに見られる緑色よりもはるかに濃色である。しかし、天然琥珀に一般的な内包物(植物の葉の破片、昆虫、土など)はほとんど含まれず、燃やしたときに放出する芳香の臭いは天然琥珀よりやや薄いのである。この“グリーン・アンバー”は若い樹脂であるコーパルを超える硬度、比重および耐酸性(溶解度)を有し、その物理学的特性は琥珀に酷似する。しかし、このような美しい緑色を示す琥珀は天然起源としては報告例がなく、処理された可能性が高い。このような“グリーン・アンバー”に対する処理法はほとんど公開されていないが、香港とドイツの製造業者から直接得られた情報によると、従来、バルト産やドミニカ産やメキシコ産などの琥珀を加熱するために使用したautoclaveを用い、温度と圧力などのパラメーターを制御し、数段階の加熱過程を設け、長時間で加熱処理を行う手法である。加熱に使われている材料は、主にドミニカ産やウクライナ産や南米産などの琥珀とカリブ海のコーパルが対象になっている。
    本研究ではこのような処理された“グリーン・アンバー”の性質を追求するため、香港やドイツやポーランドなどの処理業者から製品を入手し、また、異なる産地の(地質年代の異なる)琥珀とコーパルを香港業者のautoclaveを用いて加熱処理し、琥珀とコーパルの色の変化を観察した。同時に、FTIRによる赤外分光分析法や固体高分解能13CNMR法(核磁器共鳴法)により、“グリーン・アンバー”と天然琥珀との分子構造の違いや加熱処理前後の構造変化を調べ、グリーン色への変化するメカニズムを検討した。
  • 三浦 保範
    セッションID: 12
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
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    下記の山口県の宝石鉱物について、FE-ASEM観察写真とデータを報告する。
    衝撃変成炭素:秋吉の方解石中の炭素で衝撃変成作用でしたもの、山口県産メノウ鉱物:最近発見された県北部の瑪瑙を報告する、山口県岩国市・岩国市の赤金石を画像と組成を報告する。
    時間があれば、下関市の金雲母のデータを報告する。
  • 渥美 郁男, 矢崎 純子
    セッションID: 13
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
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    タイラギの貝殻構造については1995年の宝石学会で中村雄一らが「タイラギの貝殻構造についての考察」の中で、貝殻は真珠層と稜柱層から成っており、二枚貝であるにもかかわらず真珠層がブロック塀型であることを発表した。本研究ではさらに、タイラギの貝殻とそれから産出された真珠それぞれの、真珠層構造について電子顕微鏡等を用いて観察し分析した。また、そこから導き出された鑑別法を発表する。
  • 中野 雅章, 中川 るみ子, 佐藤 佐藤 友恵
    セッションID: 14
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
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    鑑別法については、分光反射スペクトル解析に絞り、アメリカ宝石学会(GIA)が発表したこれまでの諸論文および当研究所での現時点での所見を比較検討してみる。それらを通してこの解析法の有効性と限界性を論じる。更に最近開発された“紫外線サーチライト法”とも呼ぶべき、出力の高い紫外線を照射し、その蛍光を観察する方法とも比較検討してみる。
  • 福田 博美, 徳永 芳子, 山本 亮
    セッションID: 15
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
    会議録・要旨集 フリー
    最近市場で多く見られるようになった大珠の養殖淡水真珠について、その加工きずに絞り込んで分析を試みた。その発生形態から_丸1_スポット、_丸2_ひび、_丸3_うろこの3種に分け、アコヤ真珠に見られる同種のタイプと比較検討し、その相違性、共通性を論じた。
    次に加工について、「ロンガリット」による還元漂白法を実施し、色素の脱色程度や真珠層の硬度変化などを測定し、これもアコヤ真珠における過酸化水素を用いた酸化漂白法と比較検討した。
  • “ツイン珠”生成からの観察
    相川 雄弘, 田中 隆行, 矢崎 純子
    セッションID: 16
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
    会議録・要旨集 フリー
    養殖アコヤ真珠の中には“ツイン珠”と称される、ひょうたんのような形をした、内部に2つの核を有する真珠がある。これは生殖巣内の異なった部位を使って2つの真珠を作る目的で手術を行ったが、偶発的に2つの真珠袋が癒着してしまった結果生成した真珠である。更にこの種の真珠は、養殖期間が長くなるに従って、くびれの部分は埋まりラウンド型に近づくことも知られている。
     本研究では“ツイン珠”をくびれの埋まり方で3種に分け、その部分の電子顕微鏡(SEM)観察から、タンパク質仕切りと結晶層の厚さが経時的にどのように変化していくのか、またその変化のメカニズムはどのようなものかを仮説を踏まえて考察した。
  • 仁平 淳子, 仁平 絢子, 田中 美帆
    セッションID: 17
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
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    海水産のアコヤ貝やクロチョウ貝の場合、貝殻及び真珠の色素分泌はハサキ(稜柱層輪状薄片)の発生リズムと相関を有していることが推測されており、ハサキの発生は月の潮汐と相関を有していることが証明されている。
    一方淡水貝の場合、ハサキの発生リズムも、色素の分泌リズムも不明である。しかし淡水真珠の切断面では色素の濃淡が観察されることから、何らかのリズムが存在することは予想される。
    そこで本研究では、霞ヶ浦で生育されているイケチョウ貝の貝殻及び真珠(貝の場合は誕生年月、真珠の場合は手術年月が明瞭のもの)をサンプルにして、「断面薄層作成・透過顕微鏡観察」の手法を用い以下の点について考察した。
    (1) 色素濃度の濃淡周期性について、時間単位の概要を考察する(年単位か、四季単位か、月単位か)。
    (2) 貝殻及び真珠の色素濃度の濃淡周期性について、その相関性の有無を考察する。
    (3) 分泌色素の色調変化について、その周期性、周期時間単位の有無について考察する。
  • 大久保 雄司, 小川 一文
    セッションID: 18
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/23
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    真珠は、指輪やネックレス、ブレスレットなどに加工して販売されている。しかしながら、現在の真珠は、真珠本来の色調、光沢を完全に保持しつつ表面を保護する処理技術がないため、未だに表面処理なしで販売が続けられている。このような状態で真珠を身につけていると、汗で腐食されたり、垢で汚れたり、傷が付いたりして、真珠の価値が急速に低下してしまう。したがって、このような真珠の着用には、十分な注意が必要であった。
    本研究では、真珠本来の色調、光沢を損なうことなく耐久性のある耐汗防汚機能を付与することを目的とし、1ナノメートル程度のフッ化炭素系化学吸着単分子膜で真珠表面を被覆することを試みた。
    今回は、耐久性のうち耐摩耗性と耐水性を中心に評価した。1)耐摩耗性は、布を用いた摩耗の時間と水滴接触角測定によって評価した。また、2)耐水性は、純水浸漬前後の水滴接触角測定とSEM観察によって評価した。
    耐摩耗性は、フッ化炭素系の化学吸着単分子膜1層のみでは満足できなかった。そこで、あらかじめシリカ系の下地膜を形成後、さらにフッ化炭素系の化学吸着単分子膜を形成して2層構造とすることで、向上できた。
    一方、SEM観察によると、処理していない真珠表面は水で腐食されていたが、シリカ系の下地膜を形成後にフッ化炭素系の化学吸着単分子膜を形成した真珠表面では腐食が進んでいなかった。つまり、耐水性も、2層構造の膜で真珠表面を被覆することで向上できた。
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