宝石学会(日本)講演会要旨
平成22年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
セッションID: 7
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トラピッチェ・クオーツ
*川崎 雅之加藤 睦実廣井 美邦 廣井 美邦宮脇 律郎鍵 裕之砂川 一郎
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抄録

奈良県天川村洞川(どろがわ)にある五代松(ごよまつ)鉱山は石灰岩とそれに貫入した大峯花崗岩質岩体との境界にできた接触交代鉱床から磁鉄鉱を採掘していた鉱山である。鉱体の一部から黄色に着色した水晶が産出し、レモン水晶と称されて標本市場に流通している。この水晶はc軸方向に伸長した樹枝状のインクルージョンを含んでいるが、これは他産地の水晶には見られない特徴である。
この水晶に含まれている樹枝状のインクルージョンはEPMA及びX線粉末回折の結果、水晶であることがわかった。カソードルミネッセンスにより観察された内部組織には以下に示す特徴がある。(i) 中心部の樹枝状晶の周囲には柱面に平行な成長縞が発達している、(ii) 錐面が形成したセクターは錐面直下の表層に限られる。
これらの組織は(i) この水晶が高過飽和条件下での樹枝状成長とそれに続く低過飽和条件下での層成長という二つの過程を経ていること、(ii) 樹枝状水晶が種子となり、多面体水晶の形成を規制していることを示している。同様の過程で形成された組織で、砂糖きび絞り機の歯車(trapicho)に似た組織はトラピッチェ(trapiche)パターンと呼ばれている。これまでにエメラルド、コランダム、トルマリンで報告されているが、今回観察した水晶も類似の組織を持ち、トラピッチェ・クオーツ(trapiche quartz) と呼べるものである。
(地球惑星科学連合2010年大会で発表)

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