2003年8月に米国のApollo Diamond inc.がCVD法で合成したダイヤモンドを宝飾用に販売する計画を明らかにして以降、宝石業界においてもCVD合成ダイヤモンドが注視されるようになり、宝石学文献にも登場するようになった。2007年以降、国際的な宝石鑑別ラボの鑑別およびグレーディング実務に供せられたCVD合成ダイヤモンドの報告が散見されるようになり、当ラボにおいても2008年の6月に初めて無色のCVDダイヤモンドが鑑別依頼で供出されている。
最近になって、“HPHT処理が施された天然ダイヤモンド”という触れ込みで計48ピースのピンク・ダイヤモンドが色起源の検査のため当ラボに供せられた。これらはほとんどが0.2ct以下で、検査の結果、CVD法で合成後、HPHT処理が施され、さらに放射線照射と低温下でのアニーリング(焼きなまし)が色の原因であることが分かった。
本報告では、これらのピンク色のCVD合成ダイヤモンドについて、標準的な宝石学的検査およびラボラトリーの技術を用いた分析結果の詳細を述べ、天然ピンク・ダイヤモンド、照射処理ピンク・ダイヤモンドおよび高温高圧法合成ダイヤモンドとの比較について言及する。
標準的な宝石学的検査
拡大検査における非ダイヤモンド構造炭素由来と思われる黒色ピンポイントの存在、交差偏光下における筋模様の歪複屈折、長・短波紫外線下における鮮やかな紫外線蛍光がCVD合成ピンク・ダイヤモンドの手掛かりとなる。
ラボラトリーの技術
赤外分光(FTIR)においては、すべてのCVD合成ピンク・ダイヤモンドは、見掛け上タイプ_II_であった。数ピースに3029 cm-1の吸収ピークが認められたほか、2800~3000 cm-1の範囲に数本の吸収が認められるものがあった。
紫外-可視分光分析においては、すべてに637 (N-V-), 595および 575nm(N-V0)が観察された。これらに加えて741(GR1)と503nm(H3)が認められたものもあった。
ルミネッセンス・イメージの観察では、検査した48ピースのうちDiamondViewTM では7ピースにCVDダイヤモンドに特有の積層構造のイメージが観察され、CLでは26ピースしか観察しなかったが、15ピースに同様のイメージが観察された。すべてのサンプルにおいてUVおよびCL双方とも575nmセンタによる極めて鮮やかなオレンジ色の蛍光色を示した。
514nm波長のレーザーによるPLスペクトルは637 (N-V-)および 575nm(N-V0)が48ピースすべてに検出され、Si関連の737nmピークは4ピースにしか検出されなかったが、633nm波長のレーザーでは48ピースすべてに検出された。
325nm波長のレーザーによるPLスペクトルは503.1nm(H3)が48ピースすべてに検出され、496.1nm(H4)が31ピースに検出された。また、504.9と498.3nmの一対のピークが48ピースすべてに見られた。415.2nm(N3)にピークが検出されたものが6ピースあった。
抄録全体を表示