宝石学会(日本)講演会要旨
平成23年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
セッションID: 9
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一般講演(8):宝石としての“翡翠(ひすい)”の呼称に関する再考
*間中 裕二岡野 誠
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抄録

“ジェイダイト”は半透明の緑色の美しさが際立つ東洋の宝石である。一般には“翡翠(ひすい)”という呼称のほうが馴染み深いかもしれない。この“ジェイダイト”は、ひすい輝石の学名(Jadeite)のカタカナ読みである。そしてこのひすい輝石が集合した岩石はひすい輝石岩(Jadeitite)と岩石学的に呼称されている。これに対して“翡翠(ひすい)”は、学術的に厳密な定義がなされていない。宝石学ではひすい輝石から成る岩石を“ジェイダイト”もしくは“翡翠(ひすい)”としているのが実情である。
一方、“翡翠(ひすい)”を寵愛する中国では鉱物学的なひすい輝石、オンファス輝石(オンファサイト)、およびコスモクロア輝石が総称され、“Fei Cui”と呼ばれている。 “翡翠(ひすい)”は岩石であるため、ひすい輝石以外の鉱物が多少なり混在する。その中で代表的なものがオンファス輝石である。ひすい輝石とオンファス輝石は鉱物学的には近縁の鉱物である。ひすい輝石とオンファス輝石は、化学組成でNa:Ca比が8:2で便宜上区分されているに過ぎず、化学組成の漸次的変動には(宝石としての特性を含む)物性に顕著な相違を伴わない。糸魚川産の緑色翡翠(ひすい)には、ひすい輝石ではなくオンファス輝石が卓越するものも報告されている。
宝飾品に供される翡翠(ひすい)は、ほとんどがミャンマー産であり、緑色以外に白色、ラベンダー、赤、黒色等のバラエティが見られる。これらのうち白色の翡翠(ひすい)は理想組成に近いひすい輝石から成り、ラベンダー色には若干のマンガン(Mn)が関与しており、黄色~赤色は鉄(Fe)の影響に因る。黒色は炭素質の黒色内包物に因るものと実体色が濃緑色の2つのタイプがある。前者ではひすい輝石が主成分を成すが、後者はオンファス輝石、コスモクロア輝石の輝石鉱物の他にエッケルマン閃石(エッケルマイト)、エデン閃石(エデナイト)等の角閃石鉱物で構成される。
さて、緑色の宝飾用翡翠(ひすい)であるが、いわゆる琅玕(ろうかん)と呼ばれる透明度・光沢の高いものでもひすい輝石の他に少量のオンファス輝石を含有している。また、見た目には普通の緑色翡翠(ひすい)であってもオンファス輝石が主体のものもある。通常、オンファス輝石成分が増えることにより深みのある緑から黒色へと色調が変化してゆく傾向にあるため、濃緑から黒色のものはオンファス輝石である可能性が高い。
以上のことから、 “翡翠(ひすい)”は、ひすい輝石およびオンファス輝石を主体とする宝石・装飾用に供される岩石であると定義されるべきである。

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