宝石学会(日本)講演会要旨
平成28年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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平成28年度 宝石学会(日本) 一般講演要旨
メレサイズの無色~ほぼ無色 HPHT 法合成ダイヤモンド
北脇 裕士*久永 美生山本 正博江森 健太郎岡野 誠
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p. 4-

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抄録

宝飾用に供される合成ダイヤモンドのサイ ズおよび品質は年々向上しており、HPHT 法 合成ダイヤモンドでは10ct以上、CVD法合成 ダイヤモンドにおいても 3ct 以上のものが報告 されている。いっぽう、メレサイズの無色合成 ダイヤモンドのジュエリーへの混入も宝飾業界 の大きな懸念材料となっている。
本研究では、中国で製造されインドで研磨 されたと推測される宝飾用のメレサイズの無色 ~ほぼ無色の HPHT 法合成ダイヤモンド45石を研究用に入手し、その宝石学的特性と天然 ダイヤモンドとの重要な識別特徴について検 討を行った。
これらはすべてラウンドブリリアントカットが施さ れたルースで、重量は0.0075~0.023ct であっ た。検査した多くのものは 10 倍ルーペにおい て特徴的な包有物は認められなかった。およ そ 2 割弱程度のものには棒状や塊状、あるい は樹枝様の金属包有物が認められた。これら の金属包有物を包有するものは、強力なネオ ジム磁石に対しては明瞭な磁性を示した。交 差偏光板を用いた顕微鏡観察において、明 瞭な歪複屈折は認められなかった。ほとんどの検査石は長波紫外線下において明瞭な発 光は認められなかったが、一部に弱い青白色 もしくはオレンジ色の蛍光が観察された。短波 紫外線下ではほとんどのものに強弱の差はあるものの青白色の燐光が観察された。短いも のでは数秒であるが、長いものは 5 分以上発 光が継続した。一部にオレンジ色の燐光を示すものもあった。
FTIR で測定した 12 個すべての試料はダイヤモンドの窒素領域(1500~1000cm-1)に吸収を示さないⅡ型に分類された。12 個中 9 個 にはホウ素に由来する 4093、2928、2810、 2460cm-1 に吸収が見られ、Ⅱb型であることが 確認された。PL測定を行った12個中10個に Ni(ニッケル)由来の 883.2nm と 884.8nm のダ ブレットが検出された。また 1 個の試料にのみ 737nm(736.4/736.8nm のダブレット)ピーク (SiV-)が検出された。紫外線ルミネッセンス 像およびカソードルミネッセンス像では HPHT 法特有の分域構造と青色の燐光が観察され た。蛍光 X 線分析および LA-ICP-MS 分析で は Co、Fe、Ti、Cu が検出された。
これまで合成ダイヤモンドの宝飾用への利用 は限定的であった。しかし、最近になってメレサイズの HPHT 法合成ダイヤモンドがセッティングされたジュエリーから発見される事例が急 増している。幸いにも個々の合成石は標準的 な宝石鑑別手法とラボラトリーの分析を組み合 わせることで看破は可能である。ダイヤモンド の出所に関する正確な情報開示と適切なスクリーニングが重要である。

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