抄録
【はじめに、目的】 慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)の急性増悪は繰り返すことで予後を悪化させることや、急性増悪を予測する因子は重症度に関わらず過去の急性増悪の既往自体であることが報告されている。しかし、急性増悪に関連する因子を明らかにした報告は少ない。今回、安定期COPD患者における急性増悪の回避に関連する因子について検討した。【方法】 本研究は、当院にてIncremental Shuttle Walking Test(ISWT)、呼吸機能検査、Body Mass Index(BMI)の測定を実施し、最長2年間の追跡が可能であった安定期COPD患者84例(平均年齢68.8±10.5歳、男性79例:女性5例)を対象として、後方視的に検討を行った。急性増悪の定義は、「日常の生理的変動を超えて呼吸器症状が急激に悪化し、入院加療が必要になった状態」とした。循環器系疾患、気胸など他の疾患による入院例は対象から除外した。 年齢、各種定期使用薬剤(長時間作用性抗コリン薬・長時間作用性β2刺激薬・短時間作用性β2刺激薬・吸入ステロイド)の有無、インフルエンザワクチン接種の有無、在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy:HOT)の有無、%1秒量、BMI、ISWTでの歩行距離、ISWT終了時の自覚的呼吸困難(修正Borg Scale)を調べ、各項目において急性増悪をend pointとした単変量解析を行った。%1秒量は日本呼吸器学会の病期分類を用いて1期~4期の4群、年齢、BMI、ISWTでの歩行距離、修正Borg Scaleは中央値で2群に分類した(中央値はそれぞれ、70歳、22.3kg/m²、400m、4)。また、急性増悪までの期間を従属変数、単変量解析にて有意差を認めた項目を独立変数として多変量解析を行った。多重共線性の問題を配慮し、各独立変数の分散インフレ係数(VIF)が10未満であることを確認した。単変量解析にはKaplan-meier法とLog-rank検定、多変量解析にはCox比例ハザードモデルを用いて解析した。全ての検定において有意水準5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全対象症例に個人を特定できない条件下にて検査結果を使用することを説明し同意を得た上で、本研究は当院倫理委員会にて承認を得た。【結果】 単変量解析では年齢(急性増悪回避率・70歳未満85%:70歳以上55%、p<0.01)、HOTの有無(有38%:無75%、p<0.01)、%1秒量(1期88%:2期73%:3期74%:4期27%、p<0.001)、BMI(22.3kg/m²未満45%:22.3kg/m²以上88%、p<0.001)、ISWTでの歩行距離(400m未満44%:400m以上93%、p<0.001)において有意差を認めた。 Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析では、年齢(ハザード比、95%信頼区間、p値:1.01、0.97-1.06、p=0.63)、HOTの有無(1.48、0.63-3.46、p=0.37)、%1秒量(1.00、0.97-1.02、p=0.83)、BMI(0.74、0.58-0.96、p=0.02)、ISWTでの歩行距離(0.99、0.98-0.99、p<0.001)であり、BMIとISWTでの歩行距離が急性増悪の回避に関連する有意な因子として抽出された。【考察】 安定期COPD患者において入院を要する急性増悪の回避にはBMIと運動耐容能の指標であるISWTでの歩行距離が強く関連していた。BMIと運動耐容能はともにCOPDの重要な予後規定因子であり、急性増悪の回避にも関連する結果となったと考えられた。本研究から、生命予後改善のために急性増悪の回避が重要課題である安定期COPDの管理では、BMIと運動耐容能を維持・向上させることをアウトカムの中心とした包括的な治療や教育の重要性が示唆された。 COPDの急性増悪は呼吸器系の感染を契機に起こることが多い。栄養状態や運動耐容能を良好に保つことは免疫能と関連し感染を予防すると予測されるが、今回の検討では、これらが感染自体の回避に関連しているのかを明確にはできておらず、今後さらに検討する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 理学療法士が積極的に関わるべきCOPDにおいて、その予後にも影響を及ぼす急性増悪の回避にBMIと運動耐容能が強く関連していると考えられる。急性増悪回避のためには、これらの維持・向上をアウトカムとした理学療法の実践と、関連職種との共同体制を築いた上での包括的な介入が重要であることを示唆する結果であった。