p. 18
「ネオンブルー」と呼ばれる鮮やかな青〜緑色を呈する、銅を含有するトルマリンは、 パライバ・トルマリンとして現在の宝石業界において極めて人気の高い色石の一つに数えられる。パライバ・トルマリンは、 1980 年代後半にブラジル北東部のパライバ州で発見されて以来、他の多くの宝石質のトルマリンと同様にナトリウムを主成分に持つエルバイト(リチア電気石)であると考えられてきたが、 2010 年後半にカルシウムを主成分に持つリディコータイト(リディコート電気石)の存在が報告された(Karampelas and Klemm, 2010)。しかしその後、銅を含有するリディコータイトについての詳細に関する報告はほとんどなく、現在のパライバ・トルマリン市場における状況も明らかになっていない。
2016 年に GIA の東京ラボに持ち込まれた 13 石の銅含有リディコータイトについて、通常の宝石学的検査に加えてレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)による主要元素および微量元素の分析を行った。その結果、これらの試料はカルシウムとリチウムを主成分にもつリディコータイトに分類されることが確認できた。これらの試料はいずれも高濃度の鉛とガリウムを含んでおり、ブラジル、ナイジェリアおよびモザンビーク産の銅含有エルバイトとの比較において、これらの特徴は銅含有リディコータイトに顕著であることが明らかになった。また、高濃度の希土類元素を含むことから長波紫外線照射下で比較的強い蛍光を示すことも特徴である。
GIA が準拠している LMHC のガイドラインでは、「パライバ・トルマリン」の呼称を用いることについて、トルマリンの鉱物種による限定はされていない。そのため、銅含有リディコータイトは、 GIA の鑑別レポートではエルバイトと同様にパライバ・トルマリンとして表記される。しかしながら、微量元素の特徴が GIA の産地鑑別のデータベースと一致しないため、現段階では産地の同定は不可能である。今後、まだ明らかになっていないその成因および産状の研究とともに産地鑑別のための試料収集が喫緊の課題である。