宝石学会(日本)講演会要旨
平成30年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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平成30年度 宝石学会(日本) 一般講演要旨
LPHT 処理されたピンク CVD 合成ダイヤモンド
*北脇 裕士江森 健太郎久永 美生山本 正博岡野 誠
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p. 10

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抄録

ピンク色の CVD 合成ダイヤモンドは 2010 年頃から宝石市場で見られるようになったが、これらのピンク色は CVD 合成後に HPHT 処理が施され、その後に電子線照射とアニーリングが組み合わされた複合的な処理(マルチ・プロセス)により生み出されている。これとは別に結晶成長後に LPHT 処理のみが施されたピンク CVD 合成石の報告もあるが、これまで市場で見かけることはほとんどなかった。

最近、中央宝石研究所(CGL)東京支店にグレーディング依頼で 1 個のピンク色の石が供された。この石は 0.192ct のマーキーズ・ブリリアントカットが施されたルースで、検査の結果、 LPHT 処理が施された CVD 合成ダイヤモンドであることが判った。

このダイヤモンドは視覚的には同系色の天然ダイヤモンドと識別できないが、赤外分光分析による 3200 cm-1~2800cm-1 の C-H 由来の吸収ピーク、 PL 分析による 737nm ピークの検出および DiamondViewTM による積層成長の痕跡は CVD 合成を示唆するものである。しかし、一般的なマルチプロセスのピンク色 CVD 合成に見られる 1450 cm-1 (H1a)、 741.1nm (GR1)、 594.3nm、 393.5nm (ND1)などの照射に関連したピークは検出されなかった。赤外吸収スペクトルに見られた 3123 cm-1 ピークは NVH0 に起因すると考えられており、通常の HPHT 処理後に消失する。また、 2901、 2870、 2812 cm-1 のピークは熱処理の温度が高くなるほど高波数側にシフトすることが知られており 、 我々が独自に行った CVD 合成ダイヤモンドの HPHT 処理実験においても 1600℃の処理で 2902、 2871cm-1 に検出されたピークは 2300℃の処理において 2907、 2873cm-1 にシフトした。また、 2901、 2870、 2812 cm-1 のピークシフトは熱処理時の圧力にも関係しており、処理温度が同じ 1600℃においても圧力が 7GPa の高圧力下では 2902、 2871、 2819 cm-1 であったが、周囲圧力下では 2900、 2868、 2813 cm-1 であった。さらに赤外領域に 7917、 7804 、 1374 cm-1 と可視領域に 667nm と 684nm の吸収ピークが検出され、これらは LPHT 処理された特徴と一致している。これらに加えてフォトルミネッセンス(PL)分析で検出された H3、 NV センタなどの光学中心の強度比などの組み合わせから、この検査石は、結晶成長後に 1500-1700℃程度の LPHT 処理が施されたことが推定される。

近年、 CVD 合成ダイヤモンドは、結晶育成技術の向上と成長後の処理により、様々な色が作り出されている。これまで色の改善には主に HPHT 処理が利用されていたが、技術開発とともに LPHT 処理が普及する可能性がある。鑑別技術者にとっては LPHT 処理されたダイヤモンドの光学欠陥に対する理解が新たに必要となろう。

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