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多くの HPHT 処理無色ダイアモンドの H3 半値幅が、天然無色ダイアモンドの値よりも広い傾向があり、これは HPHT 処理される前の天然ブラウンダイアモンドの H3 半値幅が広いことが原因であると示唆されている [1]。天然ダイアモンドが有する低温での加熱により消失するフォトルミネッセンスピークを利用することは、天然無色ダイアモンドを検出する非常に信頼性の高い検査方法である。しかし、 HPHT 処理が施された場合は当然であるが、稀に天然であってもそれらのピークが検出できない場合がある。 H3 は多くの天然無色および HPHT 処理無色ダイアモンドに存在するため、 H3 半値幅による評価は断定的ではないが、無色に関しては、実用的な検査方法の一つであると考えられる。
前回、 HPHT 処理ピンクダイアモンドについて検討するため、天然ピンクダイアモンドと天然ブラウンダイアモンドの H3 半値幅を比較した。両者の H3 半値幅は、分布に僅かな差が認められたが、出現領域はほとんどオーバーラップし、無色とブラウンダイアモンドで見られた様な明瞭な差は認められなかった。
そこで今回は、 535.8m のピーク強度を検討した。 535.8nm ピークは、天然のピンクおよびブラウンダイアモンドのフォトルミネッセンススペクトルで検出されることが多いピークの一つである。高温の加熱処理では消失してしまうが、比較的低温の HPHT 処理ダイアモンドには存在する可能性がある [2]。弊社で検査した HPHT 処理ピンクダイアモンドでも 535.8nm ピークは認められることが多い。
535.8nm の強度は 596nm のラマンピーク強度を基準とした。 NV センターが強いサンプルは除外した。 535.8nm 強度比が 1.5 未満のピンクダイアモンドは 30 石中 20 石、他方ブラウンダイアモンドは8石であり半数以上は強度比が 2.0 以上であった。さらに、そのうち H3 半値幅 0.6nm 未満のピンクダイアモンドは 15 石、一方ブラウンダイアモンドは4石が該当する結果が得られた。