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宝石鉱物は母岩や産出環境といった地質学的な環境情報を保持している。宝石鉱物の構成成分の分析は、その母結晶の地質環境、産状を特定することに繋がるため、原産地鑑別における重要な情報となる。
LA-ICP-MS(レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置)は、軽元素を含む多元素同時分析による ppb ~ ppm レベルの分析が可能な質量分析装置であり、宝石学分野ではコランダムの Be 拡散加熱処理の看破や、各種宝石鉱物の原産地鑑別等に用いられている。
筆者らは 2015 年宝石学会(日本)講演会にてLA-ICP-MS を用いたルビーとブルーサファイアの原産地鑑別、 2019 年にはベトナム産のルビーとブルーサファイアについて発表を行い、LA-ICP-MS を用いた原産地鑑別の研究を継続的に行っている。
今回は最近新たに流通がはじまったグリーンランド産ルビーと、国内での流通量が増えつつあるアメリカ合衆国モンタナ州産(以下モンタナ産)ブルーサファイアを対象に検討を行った。
グリーンランドにおいては 1966 年に南西海岸でルビーとピンクサファイアが回収された。その後、 2014 年 True North Gems Inc. がAaappaluttog 鉱床地域でのコランダム採掘ライセンスを得、ルビーとピンクサファイアの最初の販売が 2017 年にスタートした。
一方、アメリカ、モンタナ州では 1800 年代後半にサファイアの採掘がはじまり、 1930 年代後半まで継続的な供給が行われていた。 2011年、 Potentate Mining 社がモンタナ州で有名なロッククリーク鉱山を含むジェムマウンテン地区の北部を、 2014 年には南部も購入し商業的な採掘をスタートさせている。モンタナ産サファイアには Yogo 産の一次鉱床のものとロッククリークを含むミズーリ河流域のものがある。 Yogo 産サファイアはランプロファイアと呼ばれる塩基性の岩石を母岩とするが、ミズーリ河流域のサファイアは二次鉱床から産出し、その成因は不明で未だ論争中である。本研究では、近年流通量が増加したミズーリ河流域のモンタナ産サファイアについてのみ取り扱う。
分析に用いた LA-ICP-MS 装置は、レーザーアブレーション装置として ESI UP-213、 ICP-MS 装置として Agilent 7900rb を使用した。サンプルはグリーンランド産ルビー9 点、モンタナ産ブルーサファイア 45 点を分析に用いた。
グリーンランド産のルビーについては Mg, Ti, Fe, Ga の濃度範囲はモザンビーク産ルビーと類似するが、 V の量がモザンビーク産よりわずかに多く、 Fe/Ga の量比がモザンビーク産とは異なる傾向を示す。
また、モンタナ産ブルーサファイアについては Fe の量が多いが、他の火成岩起源の岩石と比べ Ga が低いという特徴を見い出した。
LA-ICP-MS 法を用いた微量元素測定による原産地鑑別は一部データがオーバーラップする部分もあるため常に確実な情報をもたらすわけではなく、詳細な内部特徴の観察や標準的な宝石学特性を併用し相互補充的に用いられるべきである。