宝石学会(日本)講演会要旨
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2023年度 宝石学会(日本) 特別講演要旨
  • 小河原 孝彦
    p. 1-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
    会議録・要旨集 フリー

    糸魚川市にあるフォッサマグナミュージアムは,糸魚川ユネスコ世界ジオパークの中核施設であり, 1994 年に開館し, 2015 年にリニューアルした地質系の博物館である.ミュージアムの主要な展示物は糸魚川産のヒスイであり, 2022 年度は約 93,000 人の来館者があった.

    ヒスイは糸魚川市内の海岸でも見つけることができ,市民や観光客が海岸での石拾いを楽しんでいる.フォッサマグナミュージアムは開館当初から,市民に広く開かれた博物館を目指し,海岸などで採集した石の名前の鑑定を窓口で学芸員が行っている.この石の鑑定は近年増加傾向にあり,大半がどの岩石がヒスイかを知りたいという動機である.

    近年の,石の鑑定の件数増加に,博物館側では対応に苦慮している.今回の研究では,海岸の礫の写真からヒスイの自動判別ができる機器を開発し,学芸員の代わりとなる人工知能による機械学習を利用した石の鑑定の可能性を検討した.

    今回,海岸の礫の写真からヒスイを人工知能(以下 AI)による画像認識によって同定する手法を開発したことから報告する.

    近年,コンピューターの進歩により, AI を活用したサービスが話題となっている.OpenAI が開発した AI チャットボットである ChatGPT や, AI を利用して画像を生成する Stable Diffusion などは,一般社会においても利用が進められている.

    AI を利用した深層学習と画像認識は,自動車の自動ブレーキや防犯カメラなどに活用されており,活発に研究が進められている.地質学的分野での応用例としては,画像の深層学習による微化石の自動分類評価が山口ほか(2018)などによって報告されているが,ヒスイの同定に AI による画像の深層学習を利用した例はない.

    画像の深層学習による分類は, Google, Microsoft, IBM を始め,多くの会社や研究機関が研究開発を行っている.本研究では,2015 年に Google が開発した機械学習のソフトウェアライブラリである TensorFlow(図 1)を利用し,画像分類と物体検出に適応したアーキテクチャの NASNet を転移学習に用いた.

    学習に利用した岩石は,糸魚川の海岸で採取した礫である.ヒスイの礫に関しては,博物館職員の協力を得て収集した.これらを,ヒスイとヒスイ以外の岩石(流紋岩・安山岩・玄武岩・石英斑岩・ヒン岩・花崗岩・礫岩・砂岩・泥岩・石灰岩・蛇紋岩・ロジン岩・緑色岩)に分類した.これらを Nikon D5600 を用いて,岩石の組織が判別できるように接写で,合計約 13,000 枚の写真撮影した.そして,教師画像としてヒスイ及びヒスイ以外の2種類に分類し NASNet に転移学習させた.

    NASNet に約 13,000 枚の岩石写真を,教師画像として転移学習させた結果, 20,000 回の学習で,ヒスイとヒスイ以外の認識率は約 96%となった.

    教師画像とは別の画像を用いて,認識率の確認をしたところ, 20 枚の写真を用いたヒスイの的中率は 95%(図 2)であり, 13 枚の写真を用いたヒスイ以外の岩石の的中率は 100%であった.

    今回の研究から,人工知能を用いた画像の深層学習によって,ヒスイの認識が可能であることが明らかとなった.今後は,さらなる認識率の向上の為に教師画像の追加や,岩種ごとの分類,スマートフォンで撮影した礫の画像の分類なども実施し観光客向けにアプリとして提供していきたい.

2023年度 宝石学会(日本) 一般講演要旨
  • 福田 千紘
    p. 3
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
    会議録・要旨集 フリー

    紫外線蛍光観察器は現在長波短波共に水銀ランプと波長選択フィルタを用いてそれぞれの水銀スペクトルの輝線波長を利用した蛍光を観察している。紫外線用水銀ランプは規制の対象外であり今後も製造されていくとみられるが早い段階で代替手段の評価も必要である。

    長波紫外線に相当する 365nm 付近を中心発光波長とする発光ダイオードは以前から販売されており代替可能な発光強度の物が水銀ランプを下回る価格で流通している。短波紫外線については今のところ全く同じ波長の発光ダイオードは流通していない。

    2010 年代中ごろから 280-260nm 付近の深紫外発光ダイオードが販売されていたが当時は発光強度が極度に低く価格、寿命共に水銀ランプに及ばないものであった。近年価格も寿命も改善し殺菌灯の代替品として大量に流通している。

    今回はこの深紫外発光ダイオードを用いて短波で蛍光を発する宝石種の蛍光色を水銀ランプを用いた短波紫外線と比較した。

    発光波長は水銀ランプが 254nm 付近で発光ダイオードはばらつきがあるものの概ね 280-260nm 程度で水銀ランプに比べてやや長波長である。発光強度は 4-8W 程度の水銀ランプに比べても特に見劣りしない。窓材やその周囲の封止材は殆ど蛍光を発しないため発光ダイオードは紫外線を選択的に透過させるフィルターなしで評価した。

    評価の結果の一例として加熱されたブルーサファイアや合成ブルーサファイアは白濁蛍光を発することがよく知られているが発光ダイオードではやや緑掛かった白濁蛍光を示した。そのほかの宝石種についても本編では報告する。

    全般に蛍光の色調は一部差が認められるものの蛍光の有無や色はよく似ており差異を知った上で使用すれば代替は不可能ではない。今後さらに短波長の発光ダイオードが流通し始めると完全に水銀ランプを置換可能になると思われる。

  • 川崎 雅之
    p. 4
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
    会議録・要旨集 フリー

    群馬県南牧村の三ッ岩岳は水晶の日本式双晶の産地として有名であるが、 2013 年頃、新たにアメシストの産出が明らかになった。しかし、最近まで、その産状は不明のままであった。ここでは現地調査と採集者の証言をもとに、産出鉱物とその産状を報告する。

    三ッ岩岳は秩父帯ジュラ系の地層から構成され、砂岩泥岩層と共に緑色片岩、結晶質石灰岩、チャートが分布している。その周辺は三波川変成帯に属しており、低温高圧型の変成作用を受けている。

    現在、産出地の露頭は切り開かれた堀跡になっていて、その中央部に結晶質石灰岩(大理石)が露出している。その大理石と周囲の緑色片岩・砂岩泥岩層の間に黒い土で充填された脈があり、その中に大小さまざまな晶洞が 20 個程度あった。個々の晶洞の大きさは10~最大数十 cm に達した。晶洞の外殻は微小な水晶の集合体で構成され、その内部にアメシストとインクルージョンを含む白色~緑色の水晶が形成されている。

    この地で産出する鉱物は主に水晶であり、それらは大きく、次の4種類に分けられる。

    1)アメシスト様不透明水晶

    2)透明なアメシスト

    3)インクルージョンにより白~緑色を呈する不透明水晶

    4)晶洞の外殻を構成する無色~白色の微小な水晶

    なお、水晶以外の鉱物として、黄鉄鉱(武石を含む)、方解石、褐鉄鉱が得られている。

    産状から推測される形成過程は次の通りである。岩石中の空洞に微小水晶が急速に形成された後、その内側でインクルージョン含有水晶とアメシストが成長した。さらに同時期または成長後期に母岩が粘土化した。

  • 荻原 成騎, 末冨 百代
    p. 5
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
    会議録・要旨集 フリー

    北海道然別産蛍光オパールについて、蛍光色によって三種に分類し、それぞれの蛍光の起源となる有機物をバイオマーカー分析によって明らかにした。

    北海道然別湖西岸に注ぐ小沢には、然別火山群の火山噴出物が広く分布し、シリカシンター(オパールから成る温泉堆積物)が層状に露出する。層状シンター(オパール)は、ブラックライトにより、縞状に多様な蛍光を発する。本研究では、単色の蛍光を示す部分を分取し、バイオマーカー分析によって蛍光の起源の特定を試みた。

    標本は、長波(365 nm)によって生じる蛍光色によって、単色の蛍光を示す部分、すなわちYellow(黄色)、 Orange(橙)、 Violet(紫)を切り出した。切り出した標本から、薄片を作成し観察した。粉末化した試料は、それぞれソックスレー法により抽出し、シリカゲルクロマトグラフィーによって、炭化水素画分(N-1)、多環芳香族画分(N-2)、ケトン/エステル画分(N-3)、アルコール/ステロール画分に分画した。

    それぞれの画分は、蛍光分光計(FP-8600)によって、蛍光波長を特定し、蛍光の特徴付けを行った。さらに、それぞれの画分について、GC/MS 分析を行ない、蛍光の起源となっている有機化合物を決定した。

    蛍光物質は、 N-2 と N-3 に分画された。以下に N-2 画分の GC/MS 分析の結果を示す。各蛍光色と検出された有機化合物は、

    Yellow(黄色)- benzochrysene、perylene、 benzopyrene など

    Orange(橙)- acenaphthene、 C2-naphthalene および種々の C1-、 C2-PAH

    Violet(紫)- squalenene、 benzochryseneなど、が検出された。

    検出された蛍光有機物の起源に関する情報はわずかであるが、オパールを沈殿させた熱水は、地層中で石炭や高有機炭素質泥岩など貫いて蛍光有機物を抽出、その後、蛍光有機物を含む Opal を沈殿させた、と考えると説明しやすい。

  • 石橋 隆, 田中 陵二, 萩原 昭人, 井上 裕貴
    p. 6
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
    会議録・要旨集 フリー

    北海道鹿追町然別地域に産する通称「大雪オパール」は、紫外線照射により種々の蛍光色を呈する現象が報告されている。発光原因の正確な特定には至っていなかったが、本研究で現地調査および有機化学的分析を行い、発光原因が有機化合物であることが見出されたため、その内包状態などを報告する。

    本オパールの産状は、温泉沈澱性の粗鬆な珪華沈澱物に貫入した大小の緻密なオパール脈(オパール-A〜オパール-CT)であり、脈は最大脈幅 30cm に達する。これは、ゲル状二酸化ケイ素の沈澱による層状組織を示し、部位によって橙色〜飴色〜無色(可視光下)となっている。一方、長波紫外線によって、淡青色、淡紫色、黄色、黄緑色、橙色などの多彩な層状の発光を示す。これを粉砕し、クロロホルム抽出後に高速液体クロマトグラフィーなどにより可溶性成分を分析した。その結果、発光成分は分子量 150〜400 程度の多環芳香族炭化水素(PAH)であることがわかった。橙色蛍光はオパール中に微細に分散したビチューメン(非晶質の PAH 混合物)で、黄色〜黄緑色蛍光はコロネンやベンゾ[ghi]ペリレンなどの結晶性 PAH 包有物による。コロネンの結晶はカルパチア石(carpathite)であり、本研究で見出された天然のベンゾ[ghi]ペリレンの結晶は、北海道石(hokkaidoite)として国際鉱物学連合に新種鉱物申請し 2023年 1 月に承認された(IMA2022-104; Tanaka et al.)。これらの有機物は熱水により供給されたもので、より深部の生物遺骸有機物が起源と予想される。

    本オパールは緻密半透明な部分を含み、クラックや剥離が起こりやすいものの研磨可能である。飴色〜橙色の部位は可視光下でも美麗な互層を示し、宝石的価値を有する。特に紫外光下の蛍光の多彩さや美麗さは比肩するものがない。しかし産地は国立公園の特別区域内にあり採取は古くより制限されている。地質学、鉱物学的な重要性からも本オパールおよび産地の保護保全が喫緊の課題である。

  • 趙 政皓, 北脇 裕士, 江森 健太郎, 岡野 誠, 間中 裕二, 海老坪 聡
    p. 7
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
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    最近、 CGL に 1.593 ct のクッション・ミックスカットが施されたルビーのような赤色を呈する石が鑑別依頼で持ち込まれた(図 1)。これらは検査の結果、マスグラバイトであることが分かった。このような鮮やかな赤色を呈するマスグラバイトは我々の知る限り宝石学の文献には記載がなく、これが初めての報告と思われる。

    一見した限りではルビーやスピネルを思わせたが、屈折率は 1.715-1.721 で複屈折量は0.006 であった。さらにシャドーエッジの動きと干渉像から一軸性負号であることが確認できた。通常光では紫赤色、異常光では黄赤色の明瞭な多色性が見られた。比重は 3.60 であった。これらからターフェアイトやマスグラバイトの可能性が示唆された。

    マスグラバイト (BeMg2Al6O12)は IMA に登録されている正式な鉱物名は Magnesiotaaffeite-6N’ 3S(三方晶系)であるが、 宝石としては伝統的にマスグラバイトと呼ばれており、きわめて希少性が高くコレクターの垂涎の的となっている。マスグラバイトはターフェアイト(BeMg3Al8O16)(IMAの登録は Magnesiotaaffeite-2N’2S、六方晶系)とほぼ重複する 特性値と 類似する化学組成を有するため、その鑑別は従来より課題になっていた。鉱物の同定には伝統的にX線粉末回折分析が利用されているが、宝石では非破壊で行える蛍光X線元素分析、EDXRF を用いた単結晶回折 X 線分析法、ラマン分光法などを用いた複数の先行研究がある(eg. L. Kiefert and K. Schmetzer, 1998) 。本研究では、ラマン分光法と蛍光X線元素分析を用いてこの石がマスグラバイトであると同定できたが、さらに赤外反射スペクトルとフォトルミネッセンス・スペクトル (PL)においてもマスグラバイトであることが確認できた。

  • 林 政彦, 山﨑 淳司
    p. 8
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
    会議録・要旨集 フリー

    玉(Gyoku)は,縄文時代に勾玉として翡翠輝石が使われていたことが知られている.

    「三種の神器」の一つになっている玉は,中国の「三国志」(280-297 年)には青玉と紹介されている.わが国の「古事記」 (712 年)や「日本書紀」 (720 年)に記述され,そして「万葉集」(759- 780 年)でも詠まれている玉は,その後の「延喜式」にも登場する.これらに書かれている玉が翡翠輝石であったのか不明であるが,わが国では,玉を宝石とみなしても異論はないであろう.

    明治期に鉱物学が導入されたが,当初は翡翠輝石の記載がなかった.鉱物学は,かつて金石学とも呼称され,わが国の近代化のために必要な鉱山に関連する鉱物が着目されていた.しかし翡翠輝石は,明治期の富国強兵・殖産興業に役立つ鉱物として見なされていなかった.

    そして, The System of Mineralogy of James Dwight Dana 1837-1868:Descriptive Mineral-ogy (E.S.Dana, 1901)では, Jade を Nephrite とJadeite に分けている.わが国では,この Jade(ジェード)を軟玉(ネフライト)と硬玉(翡翠輝石)と分類した.

    この Dana の本では,中国産の分析例が紹介されている.その後に版を重ねて著者も変り,1997 年に出版された Dana‘s New Mineralogy では,わが国の小滝産の産地が明記され,カラフルなビルマ産の翡翠輝石についても紹介されている.一方,中国では,新疆ウイグル自治区の崑崙山脈から,希に透閃石-緑閃石(ネフライト)と共に産するとある.

    わが国の翡翠輝石は, 1939 年に「岩石鉱物鉱床学会誌」で初めて記載された.この論文には比較用として香港で入手した中国産のものが掲載されているが,詳細な産地は不明である.

    「宝石誌」(鈴木敏, 1916)にも翡翠輝石の化学分析値(Bull. Soc., Min., 4, 157, 1881)が記載されているが,中国産となっており,わが国の産地については触れていない.また,宝石学(久米武夫, 1953)には,ビルマ産の翡翠輝石の紹介があるが,わが国の産出例は書かれていない.その後の「新宝石辞典」(久米武夫,1962)で,ようやく糸魚川産の翡翠輝石が紹介されるようになる.論文で公表されてから,20年以上も経ってからである.

    わが国において縄文時代から宝石として使われていた翡翠輝石であるが,最近出版された本では,ガーネットや透輝石と同程度の宝石と扱われている.綺麗な翡翠輝石の魅力は誰の目にも明らかである.わが国に産出する宝石として,もっと高い評価を望みたい.

  • 江森 健太郎, 北脇 裕士
    p. 9
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
    会議録・要旨集 フリー

    宝石鉱物は母岩や産出環境といった地質学的な環境情報を保持している。宝石鉱物の構成成分の分析は、その母結晶の地質環境、産状を特定することに繋がるため、原産地鑑別における重要な情報となる。

    LA-ICP-MS(レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置)は、軽元素を含む多元素同時分析による ppb ~ ppm レベルの分析が可能な質量分析装置であり、宝石学分野ではコランダムの Be 拡散加熱処理の看破や、各種宝石鉱物の原産地鑑別等に用いられている。

    筆者らは 2015 年宝石学会(日本)講演会にてLA-ICP-MS を用いたルビーとブルーサファイアの原産地鑑別、 2019 年にはベトナム産のルビーとブルーサファイアについて発表を行い、LA-ICP-MS を用いた原産地鑑別の研究を継続的に行っている。

    今回は最近新たに流通がはじまったグリーンランド産ルビーと、国内での流通量が増えつつあるアメリカ合衆国モンタナ州産(以下モンタナ産)ブルーサファイアを対象に検討を行った。

    グリーンランドにおいては 1966 年に南西海岸でルビーとピンクサファイアが回収された。その後、 2014 年 True North Gems Inc. がAaappaluttog 鉱床地域でのコランダム採掘ライセンスを得、ルビーとピンクサファイアの最初の販売が 2017 年にスタートした。

    一方、アメリカ、モンタナ州では 1800 年代後半にサファイアの採掘がはじまり、 1930 年代後半まで継続的な供給が行われていた。 2011年、 Potentate Mining 社がモンタナ州で有名なロッククリーク鉱山を含むジェムマウンテン地区の北部を、 2014 年には南部も購入し商業的な採掘をスタートさせている。モンタナ産サファイアには Yogo 産の一次鉱床のものとロッククリークを含むミズーリ河流域のものがある。 Yogo 産サファイアはランプロファイアと呼ばれる塩基性の岩石を母岩とするが、ミズーリ河流域のサファイアは二次鉱床から産出し、その成因は不明で未だ論争中である。本研究では、近年流通量が増加したミズーリ河流域のモンタナ産サファイアについてのみ取り扱う。

    分析に用いた LA-ICP-MS 装置は、レーザーアブレーション装置として ESI UP-213、 ICP-MS 装置として Agilent 7900rb を使用した。サンプルはグリーンランド産ルビー9 点、モンタナ産ブルーサファイア 45 点を分析に用いた。

    グリーンランド産のルビーについては Mg, Ti, Fe, Ga の濃度範囲はモザンビーク産ルビーと類似するが、 V の量がモザンビーク産よりわずかに多く、 Fe/Ga の量比がモザンビーク産とは異なる傾向を示す。

    また、モンタナ産ブルーサファイアについては Fe の量が多いが、他の火成岩起源の岩石と比べ Ga が低いという特徴を見い出した。

    LA-ICP-MS 法を用いた微量元素測定による原産地鑑別は一部データがオーバーラップする部分もあるため常に確実な情報をもたらすわけではなく、詳細な内部特徴の観察や標準的な宝石学特性を併用し相互補充的に用いられるべきである。

  • 猿渡 和子
    p. 10
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
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    二酸化炭素の流体包有物はコランダムの典型的な天然由来のインクルージョンとしてよく知られている。(Koivula 1980)。最近まで、非加熱の証拠とも考えられてきたが、圧力をかけて加熱後にも二酸化炭素の流体が報告され(Nattida Ng-Pooresatien2020)、非加熱の絶対的な証拠とは言えなくなってきている。これまでの二酸化炭素流体の報告は、顕微鏡下での観察によって判断されてきたが、今回の発表では赤外吸収を用いて、二酸化炭素流体の存在を確認できることを報告する。

  • 古屋 正貴, Scott Davies
    p. 11
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
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    ミャンマー、モーゴック産のスター・ペリドットには4条の強いアステリズムを示すものがある。(図1)これらには黒い金属光沢のマグネタイトのインクルージョンや部分的に再結晶した液膜が見られるが(図2、 Gübelin et al, 2005)、強い斜光照明で光が反射する形でのみ確認できる無色の針状のインクルージョンも見られる(図3)。この針状のインクルージョンは、かなり濃密でアステリズムの原因となっている。

    このインクルージョンは長いものが一方向に平行して並んでいるが、別の方向からライトを当てると、約 90°異なる方向に並んだ、より細く短い針状のインクルージョンも見られる(図4)。前者は 40~180μm で後者は 3~35μmの長さであった。

    この長さの違いから特徴によって、スター・ペリドットでは一方向のスターが鮮明であるのに対し、もう一方向は不鮮明で、こちらは光源を近づけると、シラーのような見え方になる。

    また、スターの交差角度が 90°と 60°ほどのものが見られたが、 90°でないものは単純にオーバルの伸びた方向にスターが伸長されたものである。

    これらのインクルージョンについて、顕微ラマン分光では母結晶以外の反応が得られず、LA-ICP-MS では一部で Fe,Mg の上昇が見られた。 1999 年に Zhang らが中国産ペリドットに見られるフラクチャーを調べたところ、その内側は部分的にサーペンティンとマグネタイトが確認されたとしている。また、そのイリデッセンス、長さ、密度などの外観特徴は空隙であることが知られている Brahin のパラサイトのチューブ状インクルージョンと似ており、空隙であることも考えられるが、特定には至らなかった。

  • 三浦 真, Mike Jollands , Aaron Palke , Ziyin Sun , Wim Vertriest , 桂田 祐介
    p. 12
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
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    ペリドットはかんらん石の宝石名であり、古代より珍重されてきた宝石の一つである。特にエジプトのザバルガッド(セントジョンズ島)産のペリドットは歴代のファラオの装飾品に使用された古い歴史がある。またミャンマー、パキスタンは大きさ・質とともに現代最高級のペリドットの産地として知られ、大きな結晶は高値で取引されている。この様なペリドットの産地情報は付加価値だけでなく、考古学的な意味においても重要となる。

    かんらん石は地球のマントルを構成する主要な鉱物であり、主に玄武岩中にマントル捕獲岩・捕獲結晶として見られ世界各地で産出する比較的ありふれた鉱物である。しかしスカルン鉱床や超マフィック岩体中の熱水鉱床から産出するペリドットは比較的大きな結晶で産出し、緑色が濃く、品質もよい事から重宝されている。エジプト、ミャンマー、パキスタン、ノルウェー産のペリドットがこの変成岩・熱水鉱床起源にあたる。またペリドットはパラサイト(石鉄隕石)からも見つかっている。本研究ではペリドットの産地鑑別の可能性について議論するために、様々な起源のペリドットを FTIR による結晶構造中の欠陥解析および LA-ICP-MS による主要元素・微量元素の定量分析を実施し、比較検討した。

    FTIR 解析の結果、水酸基による吸収から構造欠陥の種類を判別する事ができ、玄武岩および変成岩・熱水起源のペリドットは FTIR を用いることで容易に識別できる。また化学的特徴も変成岩・熱水鉱床起源のペリドットについては産地ごとに異なる傾向にあり、 FTIRと LA-ICP-MS を組み合わせる事で産地鑑別を行う事ができると考えられる。しかし、玄武岩起源のものについては構造欠陥の特徴および化学的特徴が類似している事から、産地鑑別は現在のところ簡単ではないと考えられる。

  • 桂田 祐介, Aaron C. Palke , Ziyin Sun , Wim Vertriest
    p. 13
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
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    パライバ・トルマリンとして知られるブルー~グリーンの含銅トルマリンは、 1980年代の発見以降、大変な人気を維持している。近年、従来のものよりも鉄の濃度が高い含銅トルマリンが宝石市場でみられるようになった。それらの一部は銅ではなく鉄がおもに着色している可能性が疑われるため、そうしたトルマリンの色因を判断する必要がある(Krzemnicki & Wang, 2022)。 LMHC (Laboratory Manual Harmonisation Committee)は2023年2月にパライバ・トルマリンの定義を改訂し、紫外可視近赤外分光計によって得られるスペクトルの約700nmと約900nm領域の吸収度を比較する判断基準を追加した。約700nm領域の吸収が高い場合は鉄による着色が優位とされ、パライバ・トルマリンとはみなされない。しかしながら研磨石では正確な吸収スペクトルの測定は困難であり、内包物や亀裂による透明度によっても影響を受ける。そのため、正確に色因を判断できる別の方法が必要である。

    本研究ではブルー~グリーンの含銅トルマリンについて、可視近赤外の領域における銅と鉄それぞれによる吸収スペクトルを正確にもとめ、新たな判断手法を提案する。

    GIA の研究試料コレクションより、ブラジル産の含銅トルマリンおよびナミビア産の銅を含まないトルマリンを選定した。これらの試料を結晶軸に垂直な方向に正確に研磨したウエハを作成し、吸収スペクトルおよび微量元素を測定した。吸収スペクトルの測定にはカスタマイズした Hitachi 製 U-2910 紫外可視近赤外分光計を、微量元素の測定には Thermo Fisher Scientific 製 iCap Q および ESL 製NWR213 によるレーザーアブレーション・誘導結合プラズマ質量分析計(LA-ICP-MS)を用いている。

    測定結果から、銅と鉄それぞれ 1 ppm による吸収度が得られた。これに一軸性光学的異方性結晶のスペクトル計算モデル(Shen et al., 2021)を適用し、銅と鉄それぞれによる吸収スペクトルのシミュレーションを実現した。銅と鉄による吸収が拮抗する場合は、結晶軸に対する角度を変えて計算することにより、より細かく判断することが可能である。

    本報告では、シミュレーションに加え、実際に GIA に提出された判断の難しいケースへの応用例もあわせて考察する。

  • 勝亦 徹, 人見 杏実, 渡邉 梨々花, 森 有沙, 相沢 宏明
    p. 14
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
    会議録・要旨集 フリー

    はじめに

    スピネル(MgAl2O4)は遷移金属イオンの添加で種々の色の結晶が得られる。また広い固溶領域を持つため結晶の色や発光などに組成比の影響が見られる。 Fe 添加結晶についてはセラミックスの色や発光の報告 1-3 はあるが、結晶育成の報告は少ない 4。今回は Fe 添加スピネルを育成し結晶の色や発光に与える結晶育成条件の影響を検討した。

    実験と結果

    浮遊帯域溶融法(FZ 法、 Floating zone)を用いて組成比 x=MgO/Al2O3 = 1.0~0.5、 Fe 濃度0.1~2.0 mol%、雰囲気ガス中の O2 濃度 0~100vol%の条件で Fe 添加スピネル(MgAl2O4)を育成した。図 1 に Fe 濃度 0.5 mol%、 100 vol%Ar ガス、組成比 x=0.5、 0.8、 1.0 の条件で育成した結晶を示した。また、図 2 に Fe 濃度 0.5mol%、 50 vol% O2 ガス、組成比 x=0.5、 0.8、 1.0の条件で育成した結晶を示した。 100 vol% Arガス中で Mg不足組成から育成した結晶は Fe2+イオンによると考えられるピンク色を呈した。酸素中で育成した結晶は Fe3+イオンによると考えられる緑~茶色を呈し、赤色の蛍光が観察できた。

  • - アルカリシリカ反応によるオパールの劣化 -
    嶽本 あゆみ, 田邊 俊朗
    p. 15
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
    会議録・要旨集 フリー

    【緒言】

    アルカリシリカ反応(ASR 反応)はシリカがアルカリ溶液と反応する現象であり、とくにコンクリート構造物に劣化をもたらすものとして知られている。中でもオパールは材料研究分野において最も危険な反応性鉱物とされている [1]

    沖縄工業高等専門学校生物資源工学科では、本科 1 年生の専門科目であるバイオテクノロジー基礎実験において、 2019 年度よりゾル-ゲル法によるシリカガラスすなわちオパールの合成実験を行っている。一連の実験系を用いて、試薬の計量と正確な記録、加水分解反応と脱水縮合反応、触媒の比較、光の干渉による遊色効果ならびに構造色、生成物からの収率計算を、理解の到達目標としている。

    今回、オパールの合成実験と共にアルカリシリカ反応による分解・劣化を実験に組み込むことで、化学と人間生活のかかわり、無機化学、材料工学の三分野にわたる分野横断を提案する。

    【方法】

    日常生活における宝飾品オパールの劣化の検証として、水酸化ナトリウムを含有する市販の配水管洗剤を用いる。コンクリート構造材の検証として水酸化ナトリウム溶液を用いる。

    nSiO2 + 2NaOH → Na2O・ nSiO2 + H2O

    試料としてバイオテク ノロジー基礎実験で合成したオパールならびに市販の合成オパールを用い、前述の溶液に浸漬した後、走査型電子顕微鏡を用いた観察により、シリカ粒子の形状変化等を評価する。

  • 北脇 裕士, 江森 健太郎, 久永 美生, 山本 正博, 岡野 誠, 趙 政皓, Jayam Sonani , 原田 裕幸
    p. 16
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
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    宝飾用に供される CVD 合成ダイヤモンドのサイズおよび品質は年々向上しており、さまざまなファンシー・カラーも育成されている。また、無色の天然ダイヤモンドの上にⅡb 型の青色 CVD 合成ダイヤモンドをオーバーグロースさせ、ファンシー・カラー化を狙ったものや、無色の天然ダイヤモンドの上に重量の割増を狙ってオーバーグロースさせたものが報告されている。これらは“ハイブリッドダイヤモンド”とも呼ばれ、ダイヤモンドの鑑別に新たな課題をもたらしている。これまでに報告されている“ハイブリッドダイヤモンド”の CVD 層の厚さは 80-740μm と比較的薄いものであった。筆者らは天然ダイヤモンドの基板の上に2000μm の厚さを目指して CVD 合成ダイヤモンドをオーバーグロースさせ、商業的な実用化の可能性を探るとともにカット研磨後の宝石学的観察を行った。

    見た目には無色の八面体のⅠa 型天然ダイヤモンド原石2個(1.570ct と 1.049ct)をセンターソーイングで分割し、 4 個の基板を作成した。これらの種面の方位はほぼ {100} であった。CVD 合成ダイヤモンドは成長後に褐色味を除去するために多くの場合 HPHT 処理されるが、Ⅰ型の天然ダイヤモンドの基板は黄色く変色する可能性があるため“ハイブリッドダイヤモンド”には HPHT 処理は適用できない。そのためas grown で基板の天然ダイヤモンドと均一な色に CVD 層を成長させなくてはならず、種結晶周囲の厳密な温度管理が必要であった。天然ダイヤモンドの種結晶はそれぞれ形状と大きさが異なるために均一な周囲温度を達成するためホルダーを特別に設計し、すべてを単一のステップで成長させた。最適な条件を得るためには幾度となくスタート・ストップを繰り返し、その都度種結晶を再研磨しなくてはならなかった。このように“ハイブリッドダイヤモンド”の育成には多くの障壁があり、商業的な生産には課題が多い。

    Ⅰa 型の天然ダイヤモンドが含まれているため、紫外線の透過性、 N3 欠陥の検出、バルクでの FTIR測定による粗選別では天然と誤認する可能性があるが、 SYNTHdetect ではテーブル側(CVD 部位)を検査すれば refer となる。拡大検査における黒色 inc.、平面上に分布する微小 inc.の存在や特徴的な歪複屈折はオーバーグロース検出の手掛かりとなり、接合面の存在、 DiamondView 画像および PL 特徴を複合的に勘案することで看破は可能である。

  • 阿依 アヒマディ
    p. 17
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
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    大粒の天然カラーダイヤモンドの稀少性と非常に高値であるため、一般消費者に買えるようなものではないことが現実的です。そこでダイヤモンドのエンハンスメントを重視する業者が 1990 年代初期に現れ、安全かつ確実な処理法により、大変美しく多様な色のダイヤモンドを作り始めました。

    1993 年に設立したアメリカのニューヨークに拠点にある Lotus Colors 社と Briza Color Diamond 社がカラーエンハンスメント企業として、独自の照射と高温高圧(HPHT)の技術からほぼ無色の天然ダイヤモンドをベースにし、様々な鮮やかなカラーダイヤモンドへ変化させ、世界宝石市場へ提供するようになりました。

    当社の技術研究者らは数年かけて膨大なダイヤモンドを研究し、線形加速器を用いてダイヤモンドにパルス状の低エネルギーの電子ビームを与え、ダイヤモンド自身の電子に乱れを起こし、ほかの原子に捕獲されることによって、光の吸収構造が変化し、本来の色に変化が生じさせました。ダイヤモンドに電子線に晒されると、緑がかかった青色になりますが、ほかの色を形成するためには、無酸素条件下で電子線照射を続け、 450℃以上の極端な温度で加熱し、焼きなまし(アニール)が行われます。このアニールプロセスにより、ダイヤモンドの原子構造が再配列され、様々な新しい色が得られます。このようなプロセスは地下環境でも起りえる自然加熱プロセルを模倣したもので、陽子や中性子のような強力な照射処理が避けられています。

    高温高圧法は、地球深部のマントルの自然条件を正確に模倣した処理プロセスであり、この手法により天然ダイヤモンド内に含まれる微量元素が高温高圧によって解放され、自然な原色である無色、黄色、緑色、オレンジなどが現れます。当社は、この照射と HPHT 法を組み合わせ、 baby pink, rose pink, purple のようなダイヤモンドを数量限定で作れるように成功しています。

    本研究では、異なるタイプのダイヤモンド原石とカット石を選定し、両社に依頼し、その得られた処理結果を、可視-紫外領域分光、赤外線分光、 PL 分光分析法で検証しました。

  • 菊池 雄太, 尾崎 良太郎, 弓達 新治, 門脇 一則
    p. 18
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
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    真珠の価値は、干渉色、テリ、サイズ、キズなどから決まるが、特に品質を決定する上では干渉色とテリが重要な要素となる。これまでに我々は、光学計算によって、真珠内部の多層膜構造中の光の振舞いを再現し、干渉色の再現に成功している (1)。一方、テリについては、定義そのものが曖昧なため、物理的なアプローチは進んでいない。本研究では、テリを物理的、光学的な観点から扱うために、映り込みを含んだ CG 作成を試みた。

    真珠層の多重散乱は Kubelka-Munk 理論、アラゴナイト結晶層の多重反射は Transfer Matrix法を用いて計算した。計算で得られたスペクトルは真珠の干渉色となる。一方、真珠への映り込みは、キューブマッピングという手法を用いて CG 再現した。キューブマッピングでは、 360°カメラで撮影した映像を真珠表面に投影することで映り込みを描画する。また、真珠の非金属的な質感を再現するために、ガウシアンフィルタを用いて真珠の質感を再現した。図 1(a)は真珠の透過の干渉色である。一方、図1(b)は反射成分であり、干渉色に加えて周囲の映り込みが含まれている。図 1(c)はそれらを重ね合わせることで作成した真珠の CG である。また、図 2 は実際の真珠と CG の比較である。真珠の色のグラデーションや照明や撮影者が真珠に映り込んでいる様子が再現できている。この技術は真珠の映り込みを表現するものであるが、これらはテリの定量評価に繋がるものと考えている。

  • 渥美 郁男, 矢﨑 純子
    p. 19
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
    会議録・要旨集 フリー

    宝飾用素材として利用される半形真珠の母貝の一つにウグイスガイ科に属するマベ(学名: Pteria penguin)がある。

    現在、マベからは半形真珠にとどまらず有核真珠(真円)も生産され、商材としての多様性が見られる。このマベからは、他の真珠養殖母貝と同様に養殖の副産物として、サイズも疎らなバロック形状の無核真珠が産出することがある(写真1)。これらの無核真珠は、日本の真珠業界で慣例的に“ケシ”と呼ばれて流通している。大きさ、形状、色調にもバラエティーがあることから、他の母貝からの産出した“ケシ”との判別が難しいことが課題である。

    本研究ではこれらマベから産出した“ケシ”を紹介すると共に、他の母貝から産出するケシとの判別法を模索したので報告する。

  • 田澤 沙也香, 松田 泰典, 矢﨑 純子
    p. 20
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
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    真珠は主に炭酸カルシウムから成るアラゴナイト結晶とタンパク質から形成されている。また真珠は紫外線照射すると蛍光を発する。そのため、真珠において蛍光を観察することは鑑別手法の一つとして活用されている。

    浜揚げされたアコヤ真珠は黄色を帯びているような蛍光を示すものが多く、それに対し漂白などの加工されたアコヤ真珠は青白色の蛍光を示すことが多い。このことはタンパク質が加工による熱や薬品などによって何らかの影響を受けていることが考えられる。

    また、真珠を紫外可視分光による反射スペクトル測定を行うと 280nm に吸収がみられる。同様に蛍光分光による蛍光の測定においても280nm 励起によって蛍光ピークが確認されている。この 280nm 由来の紫外可視分光の吸収や蛍光分光の蛍光ピークはタンパク質の特徴といわれており、これらを用いた真珠の非破壊による品質評価への応用などが報告されている(平松ら, 2010)。

    今回は 3 次元蛍光分光を用いて紫外可視の連続的な励起波長により蛍光を網羅的に調査するとともに、様々な加工処理による蛍光とその発現パターンの変化を確認することを目的とした。

    試料として 2017 年に浜揚げされたアコヤ真珠を用いた。用いた真珠は浜揚げの状態から加熱、放射線照射処理などを行い、蛍光挙動の変化を調べた。

  • 横塚 敢, 山本 亮
    p. 21
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
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    一般にシロチョウ真珠は、流通する真珠の中でも比較的大きなサイズの真珠を産出すること、核の表面に真珠層が非常に厚く形成されるなどといった特徴がみられる。また、穴を開けずに市場に流通することも大きな特徴の 1 つであり、アコヤ真珠で行われるいわゆる“シミ抜き (漂白)”がされていない。そのため長波紫外線照射下で観察すると、一般に黄色に見えるものが多く、このような特徴も鑑別の根拠のひとつとして利用されている。

    しかし、最近になり、これまでは見られないような特徴をもつシロチョウ真珠が確認されるようになった。蛍光の色や強度が異なるものや、アコヤ真珠で主に見られる「加工キズ」がみられる真珠である。これは、市場に流通する前に表面研磨、前処理など軽微な加工のみがされてきたシロチョウ真珠において、これまでとは異なる新たな加工が行われるようになったと考えられる。

    本発表では、最近のシロチョウ真珠で見られる特徴の中から、いわゆる青白色の蛍光を発するものについて着目した。アコヤ真珠では、このような蛍光が見られるのはいわゆる“シミ抜き (漂白)”が行われた真珠である。シロチョウ真珠においても類似した蛍光が確認できることから、アコヤ真珠と同様な加工が行われている可能性が考えられる。このことを踏まえ、今回は実験的に無穴の状態のシロチョウ真珠にアコヤ真珠で行われる漂白を行い、それにより起きた特徴の変化について目視観察及び各種測定を用いて調べたので報告する。

  • 山本 亮, 佐藤 昌弘
    p. 22
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
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    現在、市場に流通するイケチョウガイやヒレイケチョウガイより産出した淡水真珠の大部分は、 1990 年代半ばごろより中国で生産されるようになり流通するようになった。

    この真珠の大きな特徴の一つとして、アコヤ真珠など生殖巣内に核とピースを入れて生産する海水産真珠と異なり、大部分が外套膜にピースのみを移植することで生産されることが挙げられる。そのため、淡水真珠の多くは核を内部に持たない“無核真珠”が流通している。

    その後、養殖技術の発展に伴い、生殖巣で養殖された有核淡水真珠が市場に多く流通するようになった。その特徴としてこれまでの真珠と比較して大型であり、また、核に貫通孔を開けて行う挿核を行う養殖方法から、核に貫通孔が確認できるものである。

    近年、これまでは有核淡水真珠とは異なり、 5mm 程度からそれ以下といった非常に小型の有核淡水真珠が流通するようになった。その外観は白色系のアコヤ真珠と非常に類似しており、アコヤ真珠と混同されて流通している場合が見受けられる。

    本発表ではこの小型の有核淡水真珠の特徴について紹介する。また、特徴の一つに穴口が崩壊している広がっているものが頻繁に見られる。これの理由として、真珠層自体が加工などに著しく劣化している可能性が考えられる。その可能性を探るべく、電子顕微鏡による真珠層の状態の観察およびビッカース硬度計による硬度の違いなどから、真珠層の状態についても調べたので報告する。

  • 若月 玲子
    p. 23
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
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    近年、有核養殖真珠の真珠市場への参入が目覚ましい。かつての淡水真珠の多くは無核でいびつな形状であったが、有核淡水真珠は真円に近い。色や光沢などの品質も海水産真珠に肩を並べる程に高い有核養殖真珠も見かけるようになった。

    また、有核淡水真珠の中にはごく稀に、真珠光沢を超えた金属のような強い光沢を放ち、虹色の干渉色を伴って美しく輝く独特な外観を呈するものがある。ここで、この真珠について紹介し、その特徴的な真珠の宝石学検査と化学的分析の結果を報告する。

  • 伊藤 映子
    p. 24
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/25
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    巻きは有核養殖真珠の重要な品質要素である。一般に巻きの薄い真珠は美しさに劣る。しかし、極端な薄巻の場合は一見しただけで分かるが、一定の巻厚を有している真珠に関しては外観と巻厚の数値は必ずしも一致していない。また、有核養殖真珠の宝石としての耐久性を考慮する際にも巻厚は重要である。真珠層の割れ、亀裂、剥離などの損傷が薄巻き珠によく見られるのも事実である。以上を踏まえ、薄巻きに見える真珠ならびに損傷が生じた真珠について巻厚値を測定し、巻厚と美しさおよび耐久性との関連を調査した。さらに、それが真珠直径と核サイズを加味した巻厚のパラメータとして新たに提案した真珠層体積率とどのように相関するかを考察した。

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