糸魚川市にあるフォッサマグナミュージアムは,糸魚川ユネスコ世界ジオパークの中核施設であり, 1994 年に開館し, 2015 年にリニューアルした地質系の博物館である.ミュージアムの主要な展示物は糸魚川産のヒスイであり, 2022 年度は約 93,000 人の来館者があった.
ヒスイは糸魚川市内の海岸でも見つけることができ,市民や観光客が海岸での石拾いを楽しんでいる.フォッサマグナミュージアムは開館当初から,市民に広く開かれた博物館を目指し,海岸などで採集した石の名前の鑑定を窓口で学芸員が行っている.この石の鑑定は近年増加傾向にあり,大半がどの岩石がヒスイかを知りたいという動機である.
近年の,石の鑑定の件数増加に,博物館側では対応に苦慮している.今回の研究では,海岸の礫の写真からヒスイの自動判別ができる機器を開発し,学芸員の代わりとなる人工知能による機械学習を利用した石の鑑定の可能性を検討した.
今回,海岸の礫の写真からヒスイを人工知能(以下 AI)による画像認識によって同定する手法を開発したことから報告する.
近年,コンピューターの進歩により, AI を活用したサービスが話題となっている.OpenAI が開発した AI チャットボットである ChatGPT や, AI を利用して画像を生成する Stable Diffusion などは,一般社会においても利用が進められている.
AI を利用した深層学習と画像認識は,自動車の自動ブレーキや防犯カメラなどに活用されており,活発に研究が進められている.地質学的分野での応用例としては,画像の深層学習による微化石の自動分類評価が山口ほか(2018)などによって報告されているが,ヒスイの同定に AI による画像の深層学習を利用した例はない.
画像の深層学習による分類は, Google, Microsoft, IBM を始め,多くの会社や研究機関が研究開発を行っている.本研究では,2015 年に Google が開発した機械学習のソフトウェアライブラリである TensorFlow(図 1)を利用し,画像分類と物体検出に適応したアーキテクチャの NASNet を転移学習に用いた.
学習に利用した岩石は,糸魚川の海岸で採取した礫である.ヒスイの礫に関しては,博物館職員の協力を得て収集した.これらを,ヒスイとヒスイ以外の岩石(流紋岩・安山岩・玄武岩・石英斑岩・ヒン岩・花崗岩・礫岩・砂岩・泥岩・石灰岩・蛇紋岩・ロジン岩・緑色岩)に分類した.これらを Nikon D5600 を用いて,岩石の組織が判別できるように接写で,合計約 13,000 枚の写真撮影した.そして,教師画像としてヒスイ及びヒスイ以外の2種類に分類し NASNet に転移学習させた.
NASNet に約 13,000 枚の岩石写真を,教師画像として転移学習させた結果, 20,000 回の学習で,ヒスイとヒスイ以外の認識率は約 96%となった.
教師画像とは別の画像を用いて,認識率の確認をしたところ, 20 枚の写真を用いたヒスイの的中率は 95%(図 2)であり, 13 枚の写真を用いたヒスイ以外の岩石の的中率は 100%であった.
今回の研究から,人工知能を用いた画像の深層学習によって,ヒスイの認識が可能であることが明らかとなった.今後は,さらなる認識率の向上の為に教師画像の追加や,岩種ごとの分類,スマートフォンで撮影した礫の画像の分類なども実施し観光客向けにアプリとして提供していきたい.
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