抄録
貴金属接着性モノマーの官能基に求められる性質として, プライマー液中やレジン組成物中では化学的に安定であるが, 貴金属表面においては化学的に活性となり, 安定した化学吸着構造を形成できるという相反する化学的性質があげられる. この解決策として, 接着官能性基の互変異性化を利用することが考案され, チオバルビツル酸, トリアジンジチオン, チオウラシルなどのモノマーを用いて有効性が確認されている. 現在, 市販されている貴金属接着性プライマーには, メルカプト基(-SH)の互変異性化が可能な化学構造を有するモノマーが応用されている. 互変異性化機構に代わる次世代の貴金属接着性モノマーとして, メルカプト基の安定な前駆体となり得るモノマーが鋭意研究されており, チイランや1, 2-ジチオランなどをあげることができる. とくに, チイラン系モノマーでは, 様々な化学構造を有するモノマーが分子設計に基づいて合成されており, 貴金属表面に化学吸着して構築される凝集分子構造に及ぼすチイラン系モノマーの化学構造の影響が注目されている. そこで, 本研究においては, 化学構造の異なる4種類のチイラン系モノマーを用いて貴金属合金に対する表面処理剤を調製し, 貴金属合金同士をMMA-PMMA系レジンにより接着させ, 水中での熱サイクルを0, 1000, 2000, 4000回負荷した後に引張接着強さを測定し, 熱サイクルに伴う接着強さの経時的な変化に及ぼす化学構造の影響を比較, 検討した.
このように, 熱サイクルに伴うチイラン系モノマーの経時的な接着強さの低下傾向は, その化学構造に強く依存しており, 吸着分子の凝集構造に基づく安定化は, レジンの長期的な耐水接着に寄与するところが大きいことが明らかとなった.