抄録
発達障害者支援において、障害が軽度であるため診断にまで至らず、現行の法制度による支援
を活用する機会がない人々は「グレーゾーン」とも呼ばれ、彼らは日常の活動の中でさまざまな困難
を抱きながらも、医療・福祉等の専門的支援の活用が難しいことから二次障害に苛まれる可能性が
高く、その発症予防が課題とされる。
本研究は、専門的支援を活用せず就労を継続する軽度発達障害者が日常的な活動の中で抱く
困難の要素を『生活困難性』として明らかにするとともに、セルフヘルプ・グループ(SHG)が持つ生
活困難性解消への有用性を検討することを目的とし、働く軽度発達障害者でかつ発達障害当事者
のSHG に参加する者を対象としてインタビュー調査を行い、KJ 法で分析を行った。
その結果、働く発達障害者の生活困難性は日常のあらゆる活動の中に存在するが、彼らは働き
続けることで学び、困難を乗り越える努力を重ねていること、SHG は発達障害者の自己・他者理解
や社会的スキル獲得に貢献しつつも、彼らを支える一方ではないこと、彼らのさまざまな活動による
経験や学びが複雑かつ相互に影響し合っていることが示唆された。また、働く発達障害者は働く段
階に至り、周囲との「違和感」や「差異」といった発達障害の自覚に至る前兆体験をしており、二次
障害予防の観点からもこの段階での支援が有用であることが示唆され、彼らが活用できるグループを
用いた新たな支援方法の提案を試みた。