2010 年 50 巻 2 号 p. 157-161
背景.神経線維腫症1型患者における悪性末梢神経鞘腫瘍合併の生涯危険率は10%であり,躯幹に発生した場合の予後は非常に不良である.症例.34歳,男性.嗄声を主訴に他院を受診し,縦隔腫瘍疑いにて当院へ紹介された.胸部X線とCTにて右上縦隔に大きな腫瘍が認められた.上方部分胸骨切開と右前方開胸下に腫瘍摘出術が施行された.腫瘍は右迷走神経由来で,径14×8 cm,偽被膜を形成していた.気管や上大静脈に強固に癒着していたため,いわゆるwide margin resectionを行えなかったが,病理組織学的に切除断端は陰性であった.しかしながら術後6ヶ月,局所および胸膜に再発が確認された.遠隔転移は認められなかった.放射線療法と化学療法(カルボプラチン+エトポシド)が施行されたが効果なく,再発後4ヶ月で死亡した.結論.悪性末梢神経鞘腫瘍に対する切除術において十分なmarginが得られない場合には,補助的治療が必要であると考えられる.