背景.稀ではあるが,臓側胸膜浸潤のない肺癌症例でも,術中に存在する胸水中に癌細胞が証明されることがある.臨床病理学的にも病期診断に極めて重要な所見であり,癌進展の自然史としても興味深い病態であるが,その機序は明らかでない.症例.血痰を契機に発見された左上葉原発,肺腺癌の68歳・男性.臨床病期はstage IAであった.術中所見では,少量の漿液性胸水を認めた他は,臓側胸膜面の変化や播種巣などはなく,sT1bN0M0D0E1(+)少量・漿液性PL0PM0:stage IAと診断した.術後病理診断では葉気管支間リンパ節に転移を認めた.癌組織の臓側胸膜浸潤は認めなかったが,胸水細胞診にて癌性胸水と診断され,最終的にpT1bN1(#11)M1a(E+):stage IVの診断となった.結論.癌性胸水の存在は,病期診断,術後の治療戦略上,極めて重要な所見である.術中に臓側胸膜表面に変化のない症例であっても洗浄細胞診を,また少量でも胸水が存在すれば胸水細胞診を積極的に施行すべきである.