肺癌
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総説
肺腫瘍の細胞分化に関わる転写因子と転写制御因子;その生物学的意義と病理診断における役割
松原 大祐
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ジャーナル オープンアクセス

2021 年 61 巻 2 号 p. 77-87

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抄録

肺癌の病理診断においてある種の転写因子の発現は,分化マーカーとして,そして,背景にある分子異常を類推するうえで重要である.肺の形成に重要な転写因子TTF-1を発現する肺腺癌は,EGFRALKなど治療標的となる相互排他的なドライバー変異を高頻度に有し,また,TTF-1そのものが癌の生存にとって重要であるとする報告もある.消化管上皮の分化に重要な転写因子HNF4αは,肺癌においてはTTF-1とは相互排他的であり,HNF4α陽性の肺腺癌はTTF-1遺伝子の不活性化型変異・高メチル化,KRAS変異を高頻度に有し,EGFRALKなどのドライバー変異は稀である.胚細胞性腫瘍マーカーとして知られているSALL4は,高悪性度胎児性腺癌のマーカーとして知られ,悪性化に関与するとともに,分子標的治療のターゲットとしても注目されている.上皮間葉系転換(EMT)型の肺癌においては,SMARCA4,SMARCA2などのクロマチンリモデリング因子の欠失がみられ,また,近年ではSMARCA4-deficient dedifferentiated tumorという新しい疾患概念が提唱されている.近年,小細胞癌において,ASCL1,NEUROD1,POU2F3,YAP1の四つの転写因子でサブタイプ分類できることが報告されている.筆者自身の肺癌の病理学的研究を踏まえて,こうした病理診断に関わる転写因子,転写制御因子について,簡単に説明する.

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© 2021 日本肺癌学会
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