2024 年 2024 巻 68 号 p. 51-59
2023 年、猫の飼育頭数は過去最大となり、猫を看取る経験が今後増加することが予測される。人間や動物の看取りに関する既存研究では、看取り当事者を支援する専門家の役割が強調されており、またペットの喪失体験におけるリアリティ分離やペットロスからの回復過程も注目されている。これを受けて猫社会学の一部である本研究では、猫を看取る体験の全体像を構造的に把握するために、2021 年7 月から10 月にかけて猫に関心を有する48 名の調査対象者に看取り体験に関するインタビューを行い、これを質的統合法(KJ 法)に基づいて分析した。インタビューデータを分析した結果、猫を看取る経験は、【飼う躊躇】、【衝動飼い】、【猫の家族化】、【モノ化する悲しみ】、【自然に還る死】、【消えない悲嘆】、【悔いなき看取りと死の受容】という7 種類のシンボルマークに整理できた。このうち【飼う躊躇】や【猫の家族化】は、人間や他のペットを看取る際にも共通する要素であり、【自然に還る死】は猫の看取りに固有の経験、【モノ化する悲しみ】は猫を含めたペットの看取りに固有の経験ではないかと考察した。また【消えない悲嘆】が【悔いなき看取りと死の受容】に転化する条件として、「動物医療グリーフケア」における「新たに迎え入れる別の個性を尊重する」という原則が重要であると考察した。