高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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シンポジウム:アナルトリーと発語失行
その音の誤りはどこから来るものか
水田 秀子
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2007 年 27 巻 2 号 p. 160-169

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抄録

  “非流暢な”発話を呈する後方病変例を報告した。90 歳,右利き,男性,側頭葉外側部から頭頂葉にかけて散在性の病変を有した。理解は良好。発話量は多くはないが,統辞形態は変化に富み,音韻性の誤りが多くみられた。特徴的だったのは,言い直し,引き伸ばしながら話し,ピッチも異常となりがちで,歪みも認められた。復唱も同様だった。また復唱では,音韻性錯語のほかに,無関連な実在語へと誤り,深層失語の様相を呈した。非語の音読は保たれた。
  呼称の精査では,語彙そのものは良好に回収されていた。音韻弁別検査はやや低下,聴覚語彙判断はきわめて不良。押韻判断,同音異義語の判断,音韻削除などの音韻意識の検査も不良であった。
  本例は語形聾(word form deafness)に該当した。語の輪郭(超分節的特徴)としては捉えられるが,分析的には正確に捕捉できないと考えられた。発話の諸特徴は Levelt による言語モデルでは,音韻符号化のレベルのセグメントや韻律的枠組みがスペルアウトされる過程での障害である可能性を指摘した。本例の基底にある障害は,音構造を分節する能力の障害により説明可能であると推察された。
  音韻の障害は,広く失語症全般に認められるものであり,今後検討すべき点について言及した。

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© 2007 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
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