高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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イブニングセミナー
Semantic Dementia と語義失語
小森 憲治郎
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2009 年 29 巻 3 号 p. 328-336

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抄録

迂遠で豊富な発話量とともに顕著な語の想起ならびに再認障害を示し,意味との関連が強い漢字の読み書き障害が現れる日本語特有の失語症状を,井村 (1943) は語義失語と名付けた。語義失語の言語学的特徴は,内容語の想起と理解,漢字処理能力が障害される一方,復唱能力と仮名および数処理能力が保存されることから,音韻機能は保たれ,意味処理能力が低下する失語症状であることが海外でも認知される契機となった (Sasanuma ら1975)。この語義失語症状はPick (1898) の報告した側頭葉葉性萎縮例の言語症状に起源を持ち,それは欧米で新たに登場した意味記憶の選択的障害例である意味性認知症と呼ばれる臨床概念の言語症状であることが明らかとなった (田邉ら1992)。しかも意味性認知症における進行性語義失語は一貫性のある語の再認および呼称障害,ことわざの補完現象の消失,熟字訓の読みと理解の障害という評価成績から容易に鑑別できる (田邉ら1992)。欧米では意味記憶障害において,規則的な読みの語に対する音読は保たれ,不規則的な語にも規則的な読みを代用する表層失読が出現することが知られている。進行性語義失語例における漢字語の処理においては,まさに表層失読のパターンをとることが明らかとなった (Fushimiら2009)。進行性語義失語は意味性認知症を知る上で,もっとも重要な症状である。

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© 2009 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
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