高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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29 巻 , 3 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
教育講演
  • 大東 祥孝
    2009 年 29 巻 3 号 p. 295-303
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2010/10/01
    ジャーナル フリー
    広義の病態失認について,その臨床像と発現機序に論及した。(1) 皮質盲や皮質聾に対する Anton 症状,(2) ウェルニッケ失語における病識の欠如,(3) 健忘症状における病態失認,(4) 左半身麻痺の否認としてみとめられる Babinski 型病態失認,について述べ,とりわけ,(4) については,これを「身体意識」の病態と考える視点が重要であることを指摘した。身体図式と身体意識を区別し,前者は Edelman のいう「高次意識」に帰属する象徴的水準における身体像であって,その病理が自己身体失認や手指失認であるのに対し,後者は,「一次意識」に帰属するものであって,言語的判断の要因を含まない直接的で無媒介な自己意識に裏打ちされた,自己身体への背景的な気づきによって特徴づけられるような身体像であり,「身体意識」が右半球優位 (右半球:両側身体,左半球:右半身) に構造化されていると仮定することで,(4) の発現機序が説明可能になることを述べた。
ランチョンセミナー
  • 数井 裕光, 武田 雅俊
    2009 年 29 巻 3 号 p. 304-311
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2010/10/01
    ジャーナル フリー
    健忘症の評価は,せん妄や confusional state などの注意障害による見かけ上の健忘症を除外することからはじまる。その後,言語性と視覚性,再生と再認,前向性と逆向性それぞれの観点から記憶の評価を行う。MRI などの神経画像検査の結果や原因疾患に関する情報も積極的に利用すべきである。健忘症の責任部位は多彩であるが,とくに海馬,海馬傍回などの側頭葉内側部,前核,背内側核などの視床,前脳基底部が重要である。さらに脳に器質的な障害がない解離性障害でも逆向あるいは前向健忘を呈することがある。それぞれの部位および疾患ごとの健忘症状の特徴を知っておくことが必要である。また皮質下性認知症でも健忘を呈するが,アルツハイマー病よりも軽度で,手がかり再生や再認が保たれやすい。したがって,健忘の評価は両者の鑑別に有用である。
  • 松田 実
    2009 年 29 巻 3 号 p. 312-320
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2010/10/01
    ジャーナル フリー
    全体的行動の変容である取り繕い反応,代表的な行動心理症状である物盗られ妄想,精神医学と神経心理学の接点ともなっている妄想性人物誤認などを中心に認知症の症候論を論じた。こうした症状は神経ネットワークの障害にだけは帰せられず,困難な状況に直面した患者の全人的反応であり,患者の心理状態を考慮した対応が必要である。神経心理学は認知障害の分析や認知症の疾患診断には必須であるが,認知症をもつ人の「こころ」に寄り添うためには神経心理学的アプローチだけでは限界があることを論じた。
イブニングセミナー
  • 鹿島 晴雄
    2009 年 29 巻 3 号 p. 321-327
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2010/10/01
    ジャーナル フリー
    前頭葉,とくに前頭前野は最大の連合皮質であることから,そこで生じる症状は機能領域特異的ではなく機能領域横断的な特徴を有し,機能領域に共通の障害の形式として捉えるべきものである。筆者は前頭葉 (前頭葉穹窿部) 症状として,セットの転換の障害,ステレオタイプの抑制の障害,複数の情報の組織化の障害,流暢性の障害,言語による行為の制御の障害という,5 つの障害の形式とを区別してきた。各障害の形式とその神経心理学的検査法を紹介した。また前頭前野 (左外側穹窿部) 梗塞例の発症11 年後の強迫様症状が,セットの転換障害と複数の情報の組織化の障害から解釈しうることを述べ,それが“ひとつの基準への固執”という,より共通の障害として表現しうると考えた。
  • 小森 憲治郎
    2009 年 29 巻 3 号 p. 328-336
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2010/10/01
    ジャーナル フリー
    迂遠で豊富な発話量とともに顕著な語の想起ならびに再認障害を示し,意味との関連が強い漢字の読み書き障害が現れる日本語特有の失語症状を,井村 (1943) は語義失語と名付けた。語義失語の言語学的特徴は,内容語の想起と理解,漢字処理能力が障害される一方,復唱能力と仮名および数処理能力が保存されることから,音韻機能は保たれ,意味処理能力が低下する失語症状であることが海外でも認知される契機となった (Sasanuma ら1975)。この語義失語症状はPick (1898) の報告した側頭葉葉性萎縮例の言語症状に起源を持ち,それは欧米で新たに登場した意味記憶の選択的障害例である意味性認知症と呼ばれる臨床概念の言語症状であることが明らかとなった (田邉ら1992)。しかも意味性認知症における進行性語義失語は一貫性のある語の再認および呼称障害,ことわざの補完現象の消失,熟字訓の読みと理解の障害という評価成績から容易に鑑別できる (田邉ら1992)。欧米では意味記憶障害において,規則的な読みの語に対する音読は保たれ,不規則的な語にも規則的な読みを代用する表層失読が出現することが知られている。進行性語義失語例における漢字語の処理においては,まさに表層失読のパターンをとることが明らかとなった (Fushimiら2009)。進行性語義失語は意味性認知症を知る上で,もっとも重要な症状である。
原著
  • 高橋 秀典, 中谷 謙
    2009 年 29 巻 3 号 p. 337-347
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2010/10/01
    ジャーナル フリー
    左被殻,放線冠に病変を有する皮質下の小病巣にて発語失行近縁の症状が軽微ながらも持続した一症例を経験した。一般に発語失行や純粋語唖などは予後が良く,発話面の障害のみがみられ,責任病巣は左半球中心前回付近と論じられることが多いが,基底核の損傷で発語失行に近縁の症状がみられた報告も散見される。そこで本例と先行報告から,中心前回付近で生じた発語失行や純粋語唖と,被殻病変で発語失行様症状がみられたものとで症状の比較を行った。相違点として,(1) 中心前回に病変をもつ皮質性障害ではプロソディーの障害が,被殻や深部白質に病変をもつ皮質下性障害では構音の障害が前景となり,(2) 自発話―課題発話の障害は,皮質性障害では乖離がなく,皮質下性障害では,乖離がない場合と,乖離する場合は発話見本が音韻または文字によって提示されるような課題発話に比べ,相対的に自発話の障害が重度になるという傾向がみられた。このような相違が生じる機序について神経生理学的な立場から考察を加え,被殻,深部白質病変でみられる皮質下性の構音の障害は,発語失行などでみられる構音の障害と同一機序で生じることが示唆された。
  • 爲季 周平, 阿部 泰昌, 山田 裕子, 林 司央子, 種村 純
    2009 年 29 巻 3 号 p. 348-355
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2010/10/01
    ジャーナル フリー
    Action disorganization syndrome (以下ADS) を呈した脳梁離断症候群の一例を経験し,ADS の出現機序と関連領域について検討した。ADS は日常的生活の順序を多く含む動作において,使用対象の誤り,順序過程の誤り,省略,質的誤り,空間的誤りを示し目的行為が障害される。ADS は目的行為の概念は保たれるが contention scheduling system におけるスキーマの表象が誤ったり省略されたりし,さらにその誤って表象されたスキーマを supervisory attention system によって訂正できない結果,そのまま誤って表象された行為が出現する。本症例は脳梁膝から,左上・中前頭回にかけて損傷されており,過去の報告例では左右どちらか一方,または両側の上・中前頭回が損傷されていた。ADS は左右両側の広範な前頭葉領域内の損傷によって生じる可能性が考えられ,左右の上・中前頭回を結ぶ交連線維の損傷により,脳内における情報の統合障害や錯綜,注意機能や抑制機能の低下が加わることで生じると考えられた。
  • 黒崎 芳子, 辰巳 寛, 田中 久, 波多野 和夫
    2009 年 29 巻 3 号 p. 356-365
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2010/10/01
    ジャーナル フリー
    脳梁梗塞により左右手に異なる失書を呈した両手利きの一例を報告した。これまで脳梁病変によって,右利き患者では左一側性に失書が出現することが指摘されてきた。本例では左右手に異なる特徴を示す失書が観察された点が特異的であった。左手の失書は鏡像的錯書を含む錯書が主体であった。一方,右手では文字形態の乱れやスクロール症状を著明に認め,書字運動のコントロールの困難さや構成障害の影響が疑われた。本例は脳梁膨大部を除く脳梁全離断例でありながら,左手に鏡像的錯書を含む錯書が観察されており,右半球にも不完全ながら書字に関する文字情報や運動情報が存在していることが示唆された。左手一側に触覚呼称障害を認めたことや,本例の書字特徴から,言語機能は左半球に,文字形態の構成能力は右半球に優位に側性化しており,さらに書字に関する運動情報は通常よりも強く右半球に形成されていることを推察した。こうした左右大脳半球の情報が,脳梁離断により十分に伝達・統合されず,左右手に失書が出現したと考えられた。
  • 長谷川 千洋, 博野 信次, 山鳥 重
    2009 年 29 巻 3 号 p. 366-375
    発行日: 2009/09/30
    公開日: 2010/10/01
    ジャーナル フリー
    記憶検査課題において,AD の虚再生 (非学習材料の産出) はよくみられる現象である。本研究では WMS-R 言語性対連合課題を用い,AD (59 名) の虚再生反応を調べ,記憶,注意,そして意味流暢性との関連を検討した。結果,(1) 虚再生は課題の学習難易度に影響を受けず,記憶障害と虚再生は相関しなかった。(2) 虚再生・無再生の出現量によって対象を3 群に分類し,各群の認知機能の特徴を比較したところ,学習難易度の高い対連合学習課題で虚再生が増えるほど,意味流暢性課題と数唱の成績が低下する傾向があった。以上より AD の虚再生は,意味記憶の非効率利用や注意および遂行機能低下との関連が深いと考えられた。
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