動詞の喚語が不良であり, 文の発話が困難な慢性期の中等度失語症 3 例(Broca 失語 2 例, Wernicke 失語 1 例)に, 文の産生能力の改善を目的とした動詞の喚語訓練を実施し, 訓練効果と文発話能力との関連を検討した。動詞の喚語訓練には, 動詞と結合する意味役割の名詞をキューとして用いる意味役割法と, 動詞の語頭音節をキューとして用いる音韻法を用いた。単一事例実験デザインの ABBA 法に準拠し, 症例によって意味役割法と音韻法の順序を換えて実施した。訓練実施後に 3 例の動詞の喚語能力に有意な改善が認められた。また, 非訓練語への般化については3 例中 2 例に有意な改善が認められた。 4 コマ漫画の説明を用いた談話評価では, 全例で訓練実施後に動詞の語数, 意味役割の数および語彙の適切な意味役割の数が有意に増加した。しかし, 全例の談話に助詞の誤用は残存した。動詞の喚語訓練により, 動詞の語彙情報と述語・項構造情報が賦活され, 文の発話の回復を促したと考えられた。