高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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原著
文字を「見なければ読める」: 文字形態の視覚刺激が運動覚読みに干渉したと考えられる純粋失読の一例
村田 翔太郎若田 浩志大下 靖夫村川 孝次竹中 勝信今村 徹
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2017 年 37 巻 2 号 p. 212-219

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抄録

  左後頭葉内側面の損傷による純粋失読の一例において, 通常の読みでは読めない文字をなぞり読みした際に, 正しい形態と筆順で仮名 1 文字をなぞれた場合であっても, しばしばその文字を音読できないという現象が観察された。この現象を検証するために, 文字形態の視覚刺激, 書字する指先・筆先の動きを見るという運筆視覚刺激, 書字動作による運動覚入力である運筆運動覚刺激の 3 種の刺激を組み合わせた仮名 1 字の読み課題を作成し検討を行った。その結果, 運筆運動覚刺激のみであれば仮名 1 文字を正しく読むことができ, そこに運筆視覚刺激を加えても正しく読めるが, 文字形態の視覚刺激も同時に入力すると正しく読めないことが多かった。この結果から, 運動覚からの文字情報が, 同時に入力された文字形態の視覚情報に干渉されたために正常に機能せず読めなくなった可能性が考えられた。この仮説をもとに, 通常のなぞり読みに失敗した場合に, 直後に閉眼してなぞりを再現させるという, 文字を「見ないで」読む訓練を本例に実施したところ, 一定の効果が得られた。

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© 2017 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
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