2019 年 39 巻 3 号 p. 294-299
失語症では, 形式的言語機能が障害されても, 語用論的能力は保たれると一般的に考えられている。 今回, 話し合いを課題とした集団訓練場面の談話分析から, 失語症者の語用論的側面を含むコミュニケーション状況の可視化を試みた。対象は失語症中軽度グループ 4 名と軽度グループ 6 名の計 10 名で, 5 分間分の書き起こしの量的および質的分析を行った。語用論的評価には日本語版語用論的評価尺度を用いた。 その結果, 量的分析では中軽度グループに比べ軽度グループで活発なやり取りがあったことが示された。 質的分析では, 両グループの発話の意図に違いがみられた。日本語版語用論的評価尺度では, 症状出現率の高い項目と低い項目があり, 高い項目は失語による形式的言語機能の障害の影響, 低いものは認知面の保持を示唆していると考えられた。失語症のコミュニケーション能力の評価には, 言語検査で評価される形式的言語機能だけでなく, 語用論的側面の評価も重要であると思われた。