視床と内側側頭葉は互いに隔たる場所に位置するにもかかわらず, これらの神経構造のいずれが損傷されても質的に類似した健忘症状が出現する。これは視床と内側側頭葉が構成する神経回路が統合的な機能的ユニットとして働いていることの証である。エピソード記憶に関わる視床-内側側頭葉回路には, 乳頭体-視床前核群-海馬回路 (Papez 回路) と嗅皮質-視床背内側核-前頭前皮質回路の 2 つがある。近年のげっ歯類の生理学的研究の知見に基づいた仮説によれば, 乳頭体-視床前核群-海馬回路は主体の経験に含まれる空間, 対象, 行動に関する情報を個別の「出来事」に束ねる働きをし, 嗅皮質-視床背内側核-前頭前皮質回路は出来事の間の関係性を表象していると考えられる。